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3Dプリンター

3Dプリントの原価を日本の電気代で計算し直す — 値付けの根拠を作る

ゲンキ

3Dプリントの原価を日本の電気代で計算し直す — 値付けの根拠を作る

「材料費は200円くらいだから、1,000円で売れば十分儲かる」。3Dプリント 原価計算の失敗は、たいていこの一文から始まる。フィラメントの重さは数えているのに、5時間動かした電気代も、失敗して捨てた1個分も、梱包材も、プラットフォームに引かれる手数料も入っていない。結果として、売れているのに手元に何も残らないという状態が生まれる。本記事では原価を8つの要素に分解し、それぞれをどう数えるかを示す。電気代には全国共通の目安単価があり、送料には公式に発表された改定予定がある。測れるものは測り、測れないものは測り方を決める——それが値付けの根拠になる。

フィラメント代しか数えていない、という典型

原価を聞かれて即答できる人は少ない。多くの場合、答えは「フィラメント1kgが何円で、この作品に何グラム使ったか」で止まる。この計算自体は正しいが、拾えているのは原価全体の一部にすぎない。

抜けやすい項目には共通の性質がある。支払いのタイミングが売買と切り離されているものだ。電気代は月末にまとめて請求されるので、1個あたりいくらかが見えない。プリンター本体は買ったときに一度払ったきりなので、その後の1個1個に費用がかかっている感覚がない。失敗して捨てた造形物は、そもそも売り物にならなかったので数える機会がない。

一方で、支払いが取引に直結している項目は見落とされにくい。送料は発送時に払うし、手数料は入金時に引かれる。だから多くの人は、この2つだけは把握している。ところが実際には、見えにくい側の合計が見えやすい側を上回ることは珍しくない。

ここを埋めないまま値段を決めると、単価の低い商品ほど赤字に近づく。しかも赤字の大きさは、売れれば売れるほど拡大する。原価計算は、売れ始める前にやるべき作業である。

原価は8つの要素に分解できる

3Dプリント品を1個売るまでにかかる費用は、次の8つに整理できる。

#要素数え方の基本
1材料費使用量ではなく「消えた量」で数える
2電気代消費電力 × 印刷時間 × 単価
3機械費本体価格を想定稼働時間で割る
4失敗率直接費を成功率で割る
5後処理の手作業所要時間 × 自分で決めた時給
6梱包資材封筒・箱・緩衝材の実費
7送料配送方法ごとの運賃
8手数料プラットフォーム手数料と決済手数料

この分類には意味がある。1から4までは印刷そのものに紐づく費用で、造形時間と材料が決まればほぼ確定する。5から7は発送に紐づく費用で、商品の大きさと重さで決まる。そして8だけが売価に連動する費用であり、値段を決めるまで金額が確定しない。

最後の性質が、後で効いてくる。売価に連動する費用があるということは、原価を積み上げてから利益を乗せる計算では正しい答えが出ないということだ。この点は後半で扱う。

材料費 — 「使った量」ではなく「消えた量」で数える

スライサーが表示する使用量は、造形物に載る分だけである。実際に消えるフィラメントはそれより多い。サポート材、ブリム、ノズルからのパージ、色替え時の廃棄、そして最初の数層で失敗して剥がれた分。これらはすべて買った1kgから減っていく。

だから材料費は、スライサーの数値をそのまま使うのではなく、上乗せ率を掛けて数える。この率は造形物の形状で変わる。オーバーハングが多くサポートを大量に使う形なら上乗せは大きくなり、平らな底面で自立する形なら小さい。自分の造形物を何個か刷って、スプールの減り方と表示値のずれを見れば、実態に近い率が出る。

計算式は単純だ。材料費 =(使用量g ÷ 1,000)× フィラメント1kgの購入価格 ×(1+上乗せ率)。ここで使う購入価格は、あなたが実際に払った金額である。相場や定価ではなく、送料込みで手元に届いた価格を使う。まとめ買いで安く仕入れているなら、その安い価格が原価だ。

上乗せ率を実測する方法も単純である。新品のスプールを開ける前に総重量を量り、10個ほど刷ったあとにもう一度量る。減った重量を、スライサーが表示した使用量の合計で割れば、その造形物における実際の倍率が出る。スプールの芯や巻き取り部分の重さが分からなくても、差分を取るだけなので結果には影響しない。素材ごとに一度この作業をしておけば、以後は表示値に係数を掛けるだけで済むようになる。

材料費を下げる方向の設計は、そのまま印刷時間も短くする。壁数を減らし、充填率を下げ、サポートの要らない向きに置く。ただし強度との引き換えになるので、どこまで削れるかは用途で決まる。この境界の見極めについては3Dプリント 強度 設計実践 2026(2026-07-24 公開)で扱っている。

電気代 — 31円/kWhという共通の物差し

電気代は「よく分からないから無視する」項目の筆頭だが、実は最も簡単に計算できる。

日本には、家電製品のカタログや広告で電気代を示すときに使われる共通の目安単価がある。公益社団法人 全国家庭電気製品公正取引協議会が定めるもので、現在の値は31円/kWh(税込)、令和4年7月22日の改定以降この値が使われている。同協議会は、経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会が公表する「電力取引報」における全小売電気事業者の販売電力量と販売額の集計値などに基づいて算出していると説明している。

もちろん実際の電気料金は契約している小売電気事業者によって異なる。同協議会もその旨を明記している。それでも、原価計算のように比較と概算のために一貫した数字が要る場面では、この目安単価が使いやすい。自分の検針票から実際の単価を割り出せるならそちらを使えばよく、分からなければ31円で計算しておけば大きく外れない。

計算式はこうなる。電気代 = 消費電力(kW)× 印刷時間(時間)× 31円。消費電力については注意がいる。プリンターの定格電力は最大値であって、常時その電力を使うわけではない。ベッドとノズルを昇温している最初の数分は大きく振れ、定常運転に入ると下がる。正確に知りたければワットチェッカーを1つ買って実測するのが唯一確実な方法で、数千円の投資で以後すべての計算が正確になる。

機械費 — 本体価格を1時間あたりに割り戻す

プリンター本体の代金は、買ったときに一度払って終わりに見える。しかし原価計算では、その機械が生涯で動く時間で割って、1時間あたりの費用として配賦する

式は単純だ。1時間あたりの機械費 = 本体価格 ÷ 想定稼働時間。想定稼働時間は、その機械をどれくらい使うつもりかで決める。ここにノズルやベルト、ビルドプレートといった消耗部品の費用を足しておくと、より実態に近くなる。

この数字を出しておくと、判断の質が上がる。印刷時間を1時間削る設計変更に、いくらの価値があるかが分かるからだ。1時間あたりの機械費が分かっていれば、時間短縮の効果を金額で比べられる。逆に、稼働率の低いプリンターは1個あたりの機械費が跳ね上がることも見えてくる。遊んでいる機械は、動いている機械より高い

なお、ここで計算しているのは管理会計上の配賦であって、税務上の減価償却とは別の話である。税務では資産の区分と法定耐用年数に従って計算する必要があり、その判断は本記事の範囲を超える。値付けのための原価と、申告のための費用は、別々に考えたほうが混乱しない。

失敗率 — 捨てた分は、売れた分が負担する

10個刷って1個失敗したなら、売れる9個で10個分の費用を回収しなければならない。これが失敗率の織り込みである。

やり方は簡単で、ここまでの直接費を成功率で割る。成功率が90%なら、直接費を0.9で割る。この操作で、失敗した1個分の材料費・電気代・機械費が、成功した9個に均等に配分される。

失敗率は造形物によって大きく変わる。背の高い薄物は倒れやすく、大面積の底面は反りやすく、細かい造形はノズル詰まりの影響を受けやすい。同じプリンターでも、商品が変われば失敗率は変わる。商品ごとに数えるのが正しいが、最初は全体の平均から始めればいい。

ここで重要なのは、失敗率を下げる努力が原価にどう効くかを理解しておくことだ。成功率が90%から95%に上がれば、直接費の割り増しは約11%から約5%に減る。失敗を1回減らすことは、材料を節約することと同じ意味を持つ。設計と設定の作り込みは、原価削減の投資である。

送料と梱包 — 2026年10月に前提が変わる

送料は、原価の中で最も金額が大きくなりやすい項目だ。そして、2026年後半にこの前提が動く。

日本郵便は2026年7月3日、2026年10月1日(木)からゆうパックおよびゆうパケットの運賃などを改定すると発表した。個人が小物を送るときに使う手段への影響は次のとおりである。

配送手段現行2026年10月1日以降
クリックポスト185円240円
ゆうパケット(厚さ1cm以内)250円360円
ゆうパケット(厚さ2cm以内)310円360円
ゆうパケット(厚さ3cm以内)360円360円
ゆうパック(基本運賃)平均改定率 約10%

この表の意味を読み解くと、影響は一律ではない。クリックポストは1個あたり55円の値上げ。ゆうパケットは厚さによる割安設定がなくなり、薄い荷物ほど値上げ幅が大きい。1cm以内で送っていた薄物は110円の値上げになる一方、3cm以内で送っていた荷物は据え置きだ。日本郵便は改定の背景を、諸物価や人件費の上昇に伴うコスト増加と説明している。

見落とされやすいのが、値上げと同時に行われるクリックポストの条件緩和である。サイズ上限は「長辺34cm、短辺25cm、厚さ3cm」から「3辺合計が60cm、長辺34cm かつ郵便差出箱に投函可能なもの」に変わり、重量上限は1kgから2kgに引き上げられる。厚さ3cmという制約が外れ、投函できる形であれば通るようになるわけだ。厚みのある造形物を扱う3Dプリントにとっては、むしろ使いやすくなる可能性がある。ただし差出方法からは郵便局窓口が外れ、郵便差出箱への投函に限られる点は運用上の変更として押さえておきたい。

ヤマト運輸の宅急便コンパクトを使う場合は、運賃とは別に専用の箱の代金70円(税込)がかかる点を忘れないこと。箱にはたて20cm×よこ25cm×高さ5cmのものと、たて24.8cm×よこ34cmの薄型の2種類がある。持込割やデジタル割といった割引もあるので、営業所やコンビニへの持ち込みを習慣にすると1個あたり数十円から百数十円が変わる。

梱包資材そのものも値上がりしている。日本郵便は同じ改定でゆうパック包装用品の価格も上げており、クッション封筒(小)は81円から90円になる。資材は数十円の世界だが、1個あたりの原価としては無視できない

手数料 — 唯一あらかじめ確定できる原価

8つの要素のうち、手数料だけは調べれば正確な値が分かる。プラットフォームごとの料率と固定額は公開されており、BOOTHとCreemaとメルカリShopsをどう使い分けるか(2026-08-18 公開)で整理したとおり、単価帯によって有利不利が入れ替わる。

原価計算の観点で重要なのは、多くのプラットフォームで送料も手数料の計算対象に入るという点だ。送料を購入者に別途負担してもらう設計にしても、その送料に対して手数料がかかる。つまり送料の値上がりは、運賃そのものだけでなく手数料も押し上げる。10月にクリックポストが55円上がれば、料率10%のプラットフォームでは5円強の手数料増が上乗せされる計算になる。

そしてもうひとつ、手数料は売価が決まらないと金額が確定しない。ここが他の7要素と決定的に違う。

したがって手数料は、原価表の中で唯一「先に金額を固定してはいけない」項目になる。ほかの7つは商品が決まればそのまま置いておけるが、手数料だけは売価を動かすたびに計算し直す必要がある。表計算で原価表を作るなら、手数料の欄には金額を直接書かず、売価のセルを参照する数式を入れておくこと。この一手間の有無で、値段を変えたときに利益率が自動で追随するかどうかが決まる。

8要素を1個の商品で積み上げる

具体的な数字を入れて計算してみる。以下の値はすべて計算例のための仮定であり、実際の値はあなたの環境で置き換えてほしい。

前提: フィラメント1kg 3,000円、使用量80g、廃棄の上乗せ15%、平均消費電力120W、印刷時間5時間、本体価格80,000円、想定稼働2,000時間、成功率90%、後処理15分を時給1,200円換算、梱包資材60円、送料はクリックポスト(改定後240円)、販売価格2,000円、プラットフォーム手数料10%。

要素計算金額
材料費80g × 3円/g × 1.15276円
電気代0.6kWh × 31円19円
機械費80,000 ÷ 2,000 × 5時間200円
直接費小計276 + 19 + 200495円
失敗率込み495 ÷ 0.9550円
後処理15分 × 時給1,200円300円
梱包資材60円
送料クリックポスト(改定後)240円
手数料2,000円 × 10%200円
合計1,350円

売価2,000円に対して原価1,350円、粗利は650円で粗利率32.5%になる。材料費だけを見ていたときの276円とは、5倍近い開きがある。ここが冒頭で述べた失敗の正体だ。

自分の手間賃を入れない計算なら、原価は1,050円、粗利950円で47.5%になる。この2つの数字の差が、後処理15分の価値である。

値付けは積み上げではなく逆算で決める

さて、粗利率40%を確保したいとする。ここで「原価1,350円 ÷ 0.6 = 2,250円」と計算すると、答えが合わない。手数料が売価に連動して増えるからだ。

正しくは方程式を立てる。売価をP、売価に連動しない原価を1,150円(合計1,350円から手数料200円を引いた額)、手数料率を10%とすると、粗利 = P − 0.10P − 1,150 となる。これが0.40Pに等しいので、0.90P − 1,150 = 0.40P、つまり0.50P = 1,150、P = 2,300円が答えになる。

検算しておく。売価2,300円なら手数料は230円、原価は1,150 + 230 = 1,380円、粗利は920円。920 ÷ 2,300 = 40%で、確かに合っている。

この差は小さく見えて効いてくる。2,250円で売った場合の粗利率は、手数料225円を足した原価1,375円に対して875円、つまり38.9%にしかならない。手数料を後から足す計算では、狙った利益率に届かない。1個あたり50円の差でも、100個売れば5,000円の差になる。

より一般的には、こう覚えておけばいい。売価 =(売価に連動しない原価)÷(1 − 手数料率 − 目標粗利率)。手数料率10%・目標粗利率40%なら、固定原価を0.5で割る。この式さえ持っていれば、プラットフォームを変えたときの妥当な売価もすぐ出せる。

自分の時間をいくらで数えるか

原価に自分の労働時間を入れるかどうかは、判断が分かれる。趣味の延長なら入れないという考え方もあるし、事業として続けるなら入れるべきだという考え方もある。

判断の軸を1つ示すと、その作業を他人に頼むとしたらいくら払うかで考えるといい。後処理15分を誰かに任せるなら、最低でも時給換算でいくらか払うことになる。その金額が、その作業の価値である。自分でやるからタダ、という計算をしていると、外注に切り替える判断ができなくなる。

そしてもう1つ。時間を原価に入れておくと、設計で手作業を削る動機が生まれる。サポートが要らない向きで設計すれば除去の手間が消え、寸法を詰めておけばヤスリがけが減る。手作業を金額として認識していれば、その削減効果も金額で見える。

現実的な運用としては、2通りの原価を並べて持つのが扱いやすい。手間賃を含めない原価は「赤字かどうかの下限」を示し、含めた原価は「続ける価値があるかの基準」を示す。上の例で言えば、1,050円と1,350円の両方を知っておくということだ。

まとめ

3Dプリント品の原価は、材料費だけを見ていると実態の数分の一しか見えない。8つの要素——材料・電気・機械・失敗率・手作業・梱包・送料・手数料——をすべて数えて初めて、値付けの根拠が立つ。

数えるための道具は揃っている。電気代には31円/kWhという共通の目安単価があり、手数料は各社が公開していて、送料は運賃表で分かる。分からないのは消費電力とフィラメントの実購入単価と失敗率だけで、このうち消費電力はワットチェッカーで測れば確定し、残りの2つは自分の記録から出せる。つまり原価は、調べれば必ず出せる数字だ。

そして値付けは、原価に利益を足す方向ではなく、目標の利益率から逆算する方向で決める。手数料が売価に連動する以上、これ以外に正しい答えは出ない。

最後に時点の確認を。本記事の送料は2026年8月時点の公表値で、日本郵便は2026年10月1日からの改定を発表済みである。10月以降に出す商品の値段は、改定後の運賃で計算し直す必要がある。原価表を一度作っておけば、数字を差し替えるだけで済む。作るのは今日でいい。

出典・参考

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