Gridfinity のビンを探さずに生成する — パラメトリック生成ツールの使い分け

配布サイトで「Gridfinity ビン」を検索すると、数千件が並ぶ。その中から自分の引き出しに合う一つを探そうとして、30分後にはタブを20枚開いたまま、まだ刷り始めていない。探す作業は、思っているより高くつく。しかも見つかったデータが幅ぴったりでも、深さが合わないことは普通に起きる。
この問題には別解がある。寸法を入力して、その場で作るという方法だ。Gridfinity のビンは形が規格で決まっているため、幅・奥行き・高さ・仕切りの数といった数値を与えれば機械的に生成できる。パラメトリック生成と呼ばれるこの方式は、既製データを探す作業を、数値を決める作業に置き換える。
生成の手段は大きく4系統ある。本記事はそれぞれの得意分野と、選ぶときに見落とされやすい条件を整理する。
探すより作るほうが速い場面

まず、常に生成が有利なわけではない。判断は単純な線引きでよい。
| 状況 | 向いている方法 |
|---|---|
| 単純な仕切り箱が欲しい | 生成(探す時間のほうが長い) |
| 特定の工具の形に沿った受けが欲しい | 既製データを探す。なければ設計 |
| 引き出しの寸法に合わせて端数を詰めたい | 生成(1.5升のような半端も作れる) |
| 見栄えのする装飾つきの箱が欲しい | 既製データ |
箱の中身が「空間」なら生成、「形」なら探す、と考えると外しにくい。ネジやドリル刃を放り込む仕切り箱は前者で、ラチェットハンドルの形に沿った受けは後者である。
時間の見積りでも比べておきたい。既製データを探す作業は、検索・比較・寸法確認・ダウンロードで20分から30分かかることが珍しくない。しかも「だいたい合う」ものを妥協して選ぶと、印刷後に微妙な隙間が残る。一方で生成は、道具の導入を済ませてしまえば数値の入力だけで済み、数分で書き出しまで到達する。初回だけ導入の時間がかかり、2回目以降はほぼゼロになるという構造が、繰り返し作る収納と相性がよい。
生成の利点は速さだけではない。同じ設定を保存しておけば、半年後に同じ寸法の箱を追加できる。既製データは配布が終了することがあるが、生成の設定は手元に残る。再現性という意味では、生成のほうが在庫を持たずに済む。
生成の4系統

系統ごとに前提が違う。導入の重さと自由度は、おおむね反比例する。
| 系統 | 動かす場所 | 導入の重さ | 自由度 |
|---|---|---|---|
| OpenSCAD 系スクリプト | 手元のPC | ソフトの導入が必要 | 高い |
| その拡張版 | 手元のPC、または配布サイト上 | 同上、または不要 | 高い |
| CAD アドイン | 手元の CAD | CAD 本体が必要 | 中(後編集が効く) |
| ブラウザ生成 | Webブラウザ | 不要 | 低〜中 |
この表で注意したいのは、「導入が軽い=初心者向け」ではないということだ。ブラウザ生成は確かに手軽だが、細部を詰めようとすると項目が足りない。逆に OpenSCAD 系は最初の導入だけ越えれば、以後はスライダーを動かすだけで済む。越えるべき壁が最初に来るか、後から来るかの違いである。
選ぶ基準は、実のところ「いま何を持っているか」でほぼ決まる。CAD を日常的に使っているならアドインが最短で、使っていないなら CAD の習得から始めることになり本末転倒になる。逆に、これまで3Dモデリングに触れていないなら OpenSCAD 系のほうが敷居が低い。形を描く操作を覚える必要がなく、数値を入れて再描画させるだけだからだ。手持ちの環境から選べば、たいてい正解に近い。
OpenSCAD 系 — カスタマイザで数値を触る

もっとも使われているのが、OpenSCAD 上で動くスクリプト群である。代表格の gridfinity-rebuilt-openscad(kennetek)は MIT ライセンスで、公開されている機能は次のとおりだ。
- 幅・奥行き・高さを自由に指定(高さは升数、内寸の深さ、全体寸法のいずれでも指定可能)
- 縦横それぞれの仕切り数を指定
- すくい上げ形状(スクープ)の有無
- つまみ(タブ)の有無、分割、位置合わせ
- 穴の有無と、サポートなしで印刷できる穴構造の切り替え
- 仕切りの手動配置
- 積み重ね用の縁(リップ)の有無
- 1.5升のような分割した基部の生成
- 基部の材料を削ってフィラメントを節約する処理
- 花瓶モード(外周1周のみ)用のビン
注目すべきは穴の扱いである。磁石を埋める座ぐり穴は、そのまま刷ると天井部分にサポートが要る。このスクリプトはスライサーが橋渡し(ブリッジ)で処理できる形状を選べるようにしており、サポート材とその除去作業をまるごと省ける。数十個刷る前提だと、この差は無視できない。
使い方は、スクリプトを開いてカスタマイザ画面のスライダーを動かすだけである。コードを書く必要はない。プログラムを書くのではなく、パラメータを入力する道具だと考えたほうが実態に近い。
実際の操作感も書いておくと、スライダーを動かすたびに画面の形状が更新され、押し出しの向きや仕切りの位置が目で確認できる。数値の意味が分からなくても、動かせば何が変わるかは見える。触って覚えられるという点で、寸法の理解がないうちから使い始められる。
そもそも OpenSCAD は、図形を手で描くのではなく、寸法と演算で形を定義する無償のモデリング環境である。四角い箱から円柱を引き算する、という記述の積み重ねで形ができる。この方式は有機的な曲面には向かないが、規格で寸法が決まっている収納部品とは相性がよい。同じ寸法を何度でも正確に再現でき、数値を1つ変えるだけで別の大きさが出てくる。既製データを開いて手作業で伸縮させるのとは、精度も手間もまったく違う。
導入時の注意点として、開発版(ナイトリービルド)の利用が推奨されている。公式の説明によれば、新しい幾何演算エンジンを有効にすると処理が大きく速くなる。実際、開発元は複雑なビンの描画が10分から数秒に短縮すると説明している。必須ではないが、大きな箱を作るなら効いてくる差である。
拡張版で増えるもの

同じ OpenSCAD 系でも、gridfinity_extended_openscad(ostat)は位置づけが少し違う。ライセンスが GPL-3.0 で、元の設計を再現しつつ追加機能と拡張パターンを載せている。
この拡張版が実用的なのは、配布サイト上に公式のオンラインカスタマイザが用意されている点だ。ソフトを導入せずブラウザで試せる版が提供されており、開発者はこれを最新版に追従させていると説明している。手元で動かす場合は、通常版ではなく開発版の OpenSCAD が必要で、設定画面で高速化エンジンと文字関連の機能を有効にする手順が案内されている。文字を扱う機能が要るのは、箱にラベルを刻む用途があるからである。
開発元は、手元で動かすほうを推奨している。理由は速度と、設定を保存できることだ。数十個を作る前提なら、この「設定が残る」性質が効いてくる。
拡張版が向くのは、標準の選択肢では足りなくなったときである。仕切りの入れ方を細かく決めたい、箱の前面に中身の名前を刻みたい、既存の升目に乗らない特殊な形を足したい、といった要求がここに当たる。逆に、単純な仕切り箱を数個作るだけなら標準版で十分であり、拡張版の設定項目の多さはかえって負担になる。必要になってから移ればよいというのが現実的な順序で、どちらも同じ規格の箱を出す以上、あとから乗り換えても互換性は失われない。
CAD アドインという選択肢

CAD を既に使っているなら、アドインで生成する道がある。Fusion 用の GridfinityGenerator(公開者 Lev Mishin)は配布サイト上で無料と表示されており、生成されるのは編集可能なパラメトリックのボディである。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 生成対象 | ビンとベースプレート |
| 既定寸法 | 基部の幅 42mm、高さの1単位 7mm |
| ベースプレートの種類 | 薄型、重り入り、骨組み、ねじ連結 |
| 穴 | 磁石(6mm 径 × 2mm 高)と M3 ねじの穴。有無・皿取り・角のみ配置を選べる |
| ビンの選択肢 | 積み重ね用の縁、すくい形状、ラベル用のタブ、中実生成 |
中実(ソリッド)で生成できるのが、この系統の強みである。工具の形に沿った受けを作るとき、まず塊として出しておき、そこから工具形状を引き算する、という進め方ができる。ゼロから箱を設計するより早く、規格からも外れない。
もうひとつの強みは、生成後に手を入れられることだ。CAD の履歴機能が効くため、生成したボディに対して面取りを足す、穴を開ける、一部を薄くする、といった編集を後から加えられる。生成物が最終形ではなく出発点として使えるという点が、書き出して終わりのブラウザ生成との決定的な差になる。工具の受けや、機器の形に合わせた特殊な仕切りを作るなら、この編集の余地は大きい。
ただし条件がある。このアドインのライセンスは CC BY-NC-SA 4.0、つまり非商用条項を含む。配布サイトの価格表示が「無料」であることと、商用に使ってよいかは別の話だ。加えて、CAD 本体のライセンスも当然ながら別に必要になる。
ブラウザだけで完結させる

ソフトを何も入れたくない場合、ブラウザで動く生成ツールがある。ただし注意が要る。関連ツールをまとめている gridfinity.tools は、それ自体が生成ツールではなく、リンク集である。
そこから辿れる生成ツールにも性格の違いがある。写真から物の輪郭を取ってくり抜きを作るものは AGPL で公開されており、別の生成ツールは CADQuery を基礎に置くため STL だけでなく STEP 形式で書き出せる。
STL と STEP の違いは、後の作業量に直結する。STL は表面を三角形で近似したデータで、印刷には十分だが、後から「幅を3mm 広げる」といった編集は苦手である。STEP は面と曲線の定義を保つため、CAD に読み込んで寸法を変更できる。一度きりで終わるなら STL、手を入れる前提なら STEP と考えればよい。生成ツールを選ぶときに書き出し形式を見ておくと、後の作り直しを減らせる。
ブラウザ生成にはもう一つ利点がある。別の機械からでも同じ結果を出せることだ。作業用の機械に何も入れていなくても、手が空いた時間に寸法を入れて書き出せる。逆に欠点は、設定が手元に残らないことである。同じ箱をもう一度作りたくなったとき、入力した数値を覚えていなければ再現できない。使うなら、入れた数値だけは自分でどこかに控えておきたい。
ブラウザ生成は「1個だけ今すぐ欲しい」場面に向く。逆に、数十個を継続して作るなら、設定が手元に残る方式のほうが結局は速い。
ライセンスは規格とツールで別々に効く

ここまでで4系統を見てきたが、ライセンスが揃っていないことに気づいたはずだ。整理する。
| ツール | ライセンス | 販売用データの生成 |
|---|---|---|
| gridfinity-rebuilt-openscad | MIT | 制限なし |
| gridfinity_extended_openscad | GPL-3.0 | 制限なし(改変配布時は同一条件) |
| FusionGridfinityGenerator | CC BY-NC-SA 4.0 | 非商用条項がある |
| 切り欠き生成ツール(Outline) | AGPL | 制限なし(改変配布時は同一条件) |
Gridfinity という規格そのものは MIT で自由に使える。それでも、作る道具の側に非商用条項が付いていることがある。この差は、リポジトリの一覧画面では見えない。自動判定が「判定なし」と表示するケースがあり、ライセンスファイルを開かなければ MIT なのか非商用なのか区別できない。
補足として、GPL や AGPL のような条件つきのライセンスは、主にソフトウェアそのものの配布や改変に効くものである。生成された形状データの扱いは、ライセンスの条文と利用のしかたによって変わりうるため、販売を前提にするなら条文と配布元の説明を確認したほうがよい。ここで断定的な結論を書くことはしない。
確認は1分で終わる。リポジトリを開き、ライセンスファイルの本文の先頭数行を読む。それだけである。規格の側の条件については 収納を自作する前に規格を決める — Gridfinity と openGrid、そしてライセンスの違い(2026-08-31 公開) で整理した。
パラメータの意味を AI に説明させる

OpenSCAD 系のスクリプトは、カスタマイザに数十個のパラメータが並ぶ。名前だけでは何が変わるか分からないものも多い。ここが言語モデルの使いどころである。
有効なのは次の3つだ。第一に、パラメータの意味を訊く。スクリプトの該当箇所を貼り付けて、この変数が形状のどこに効くのかを説明させる。第二に、変更箇所を特定させる。「縁を残したまま高さだけ変えたい」といった要望から、触るべき変数を挙げさせる。第三に、条件式を書き換えさせる。標準の選択肢にない挙動を足すとき、既存コードの書き方に合わせた差分を作らせる。
いずれも共通するのは、コードが手元にあり、結果を目で確認できるという前提である。生成結果は画面に描画されるため、間違っていればすぐ分かる。この即時性が、言語モデルを安全に使える条件になっている。
渡し方にも作法がある。スクリプト全体を丸ごと貼るより、該当する関数やパラメータ定義の周辺だけを切り出して渡すほうが、返答の精度が上がる。あわせて「何を変えたいか」を形状の言葉で書く。「変数 X を 3 にしたい」ではなく「積み重ねたときに横ずれしないようにしたい」と書けば、触るべき箇所の候補ごと返ってくる。結果は画面で確認できるのだから、提案を試して捨てる速度こそが効率を決める。コードで形を作る手法そのものは OpenSCAD × LLM 実践 2026 — コードCADを ChatGPT・Claude と書く(2026-07-18 公開) で詳しく扱った。
丸投げが失敗する理由

一方で、「Gridfinity のビンを作るコードを書いて」と頼む使い方は失敗しやすい。理由は単純で、規格の数値がモデルの中に正確に入っている保証がないからだ。
Gridfinity には作者が管理する公式の仕様書が存在しない。数値は配布ファイルと各実装が共有しているもので、文書としてはコミュニティが整備している。学習データとしての正確さが担保されていない領域であり、それらしい数値を出されても検証しようがない。実際、升目の寸法は正しくても、縁の断面や穴の位置がずれれば互換性は失われる。
したがって運用は逆にする。規格の数値はこちらから仕様として渡し、モデルには組み立てと修正をさせる。既に検証された実装があるなら、それを土台にして差分だけを作らせるほうが速く、確実でもある。ゼロから書かせるのは、検証の手間を自分に戻す行為になる。
この判断は、検証コストで考えると分かりやすい。ゼロから書かせたコードは、升目・縁・穴・積み重ねのすべてを自分で検算しなければ信用できない。既存の実装に差分を入れた場合、確認すべきは触った箇所だけで済む。同じ出力を得るのに、確認する範囲が一桁変わる。生成そのものが速くても、確認が遅ければ全体は速くならない。
刷る前に見る3点

生成したデータは、印刷前に3点だけ確認すれば大きな事故を防げる。
- 外形の升数。引き出しの内寸を升目で割ったとき、端数がどこに来るか
- 穴の処理。磁石やねじの穴を有効にした場合、サポートなしで刷れる形状になっているか
- 積み重ねの縁。縁を無効にすると積めなくなる。単独で使う箱なら材料の節約になる
このうち1番目だけは、生成ツールでは判断できない。引き出しを測るのは人間の仕事だからだ。逆に言えば、寸法さえ手元にあれば、あとは数値を入れるだけで終わる。
穴の扱いについては、有効にするかどうかを先に決めておきたい。磁石で固定すると引き出しの開閉で箱が動かなくなるが、磁石そのものの費用と、埋め込む手間が全数にかかる。数十個を刷るなら、この作業時間は無視できない。動きやすい浅い引き出しだけ磁石を入れるといった使い分けが現実的である。縁についても同様で、積む予定のない箱に縁を付けても材料と高さを損するだけになる。
まとめ

Gridfinity のビンは、探すより作るほうが速い場面が多い。要点を整理する。
- 判断は「中身が空間なら生成、形なら既製データ」で足りる
- 生成は4系統。OpenSCAD 系は導入だけ越えれば自由度が高く、CAD アドインは後編集と中実生成に強い。ブラウザ生成は1個だけ欲しいときに向く
- OpenSCAD 系の代表格は MIT で、サポート不要の穴形状や1.5升のような分割基部まで生成できる。開発版を使うと描画が10分から数秒に短縮すると説明されている
- 拡張版は GPL-3.0 で、配布サイト上に公式のオンライン版がある
- CAD アドインは無料で公開されているが、ライセンスは CC BY-NC-SA 4.0 で非商用条項を含む。価格が無料であることと商用可否は別の話である
- 言語モデルはパラメータの解読と差分作成に向く。規格の数値は自分で渡す
道具が揃うと、次に効いてくるのは「何個刷るか」という前提である。1個なら設定の良し悪しはほとんど関係ないが、数十個になると設定の差が時間と材料に直結する。
出典・参考
- gridfinity-rebuilt-openscad (kennetek, MIT)
- gridfinity-rebuilt-openscad — Baseplates ドキュメント
- gridfinity_extended_openscad (ostat, GPL-3.0)
- FusionGridfinityGenerator (Le0Michine, CC BY-NC-SA 4.0)
- gridfinity.tools — ツールのリンク集
- Outline (georgslazdans, AGPL-3.0)
- Gridfinity Creator (CADQuery ベース・STEP 書き出し)
- Gridfinity Unofficial Wiki — Specification





