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家電の故障で何が直り、何が直らないのか — 修理イベントの41万件の記録を集計し、直らない理由を AI に読ませる

ゲンキ

電気ケトルが沸かなくなった、掃除機が吸わなくなった。こうした家電の故障を地域の修理イベントに持ち込んだとき、その場で直るのはどれくらいで、直さないと決めたときには何が足りなかったのか。修理カフェ(Repair Café)などで地域の修理団体のボランティアが付けた記録を集めた公開データ「Open Repair」には、その結果と、記入があれば理由が、1件ずつ残っている。

そこで、Open Repair Alliance のデータ(2026 年 10 月版、2026 年 7 月末までの記録、ORDS v0.3)のうち、電源のある製品の記録 416,282 行(41 万件余り)をすべて集計した。そのうえで、製品の分類と、ボランティアが書いた自由記述のメモだけを AI に渡し、直さないと決めた理由を当てさせた。

※本記事にはアフィリエイト広告(PR)が含まれます。

先に結果を書く。この記録では、その場で直った Fixed が 54.5%、直さないと決めた End of life が 25.1% だった。理由が記入された End of life 44,182 行のうち最も多いのは “Spare parts not available”(部品が手に入らない)の 28.7% で、”Spare parts too expensive”(部品が高すぎる)の 14.5% と合わせると 43.2% が部品の理由になる。一方、メモだけから理由を当てさせると、claude -p は 300 行のうち 163 行で「読み取れない」と答え、理由を選んだ 137 行の正解は 73 行だった。AI の実行は各条件 1 回である。

どの数字も「修理イベントに持ち込まれた家電の記録では」という条件つきの値で、世の中の家電の故障全体の割合ではない。そこでまず、この記録が誰のどんな記録なのかを確かめてから集計に入る。

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家電の故障の記録は誰が付けたか — 修理イベントに持ち込まれた品だけが載る

家電の故障の記録は誰が付けたか — 修理イベントに持ち込まれた品だけが載る

Open Repair Alliance(ORA)は、地域の修理活動の記録を共通の形にそろえて公開している団体だ。中心の会員は、ドイツの anstiftung、米国の Fixit Clinic、Repair Café International Foundation(ORA の表記は The Repair Cafe Foundation)、英国の The Restart Project の4団体である。これに iFixit を加えた5団体が設立会員にあたる。

記録の出どころは、Restart Party、Repair Café、Fixit Clinic と呼ばれる地域の修理イベントだ。Repair Café International Foundation の説明では、Repair Café は無料の集まりの場で、訪れた人が家から壊れた品を持ってきて、一緒に直す。最初の Repair Café は 2009 年 10 月 18 日にアムステルダムで開かれた。こうした場で付けた修理の結果を提携団体が ORA に提供し、まとめたものが Open Repair のデータになる。

この成り立ちから、記録には偏りがある。ORA と記録の取り決め(ORDS)の説明に沿って並べると、次のとおりだ。

  • 記録を集めるのは地域の修理団体のボランティアで、記録の付け方は場所ごとに違う
  • 対象は保証期間を過ぎた品の修理で、中心は小型の電気製品と電子機器
  • 修理イベントを開いていても、まだデータに入っていないグループが多い(ORA 自身の記述)
  • 最大の提供元は The Restart Project(2012 年にロンドンで設立)
  • 製品の分類は、提供元の分類を ORA が共通の分類に対応付けたもので、誤りを含む
  • 国の列は、提供元が出していなければ提供元の主な国で埋めてある
  • 製造年と製品の年齢は推定の値

つまり、記録に載るのは修理イベントに持ち込まれた品だけだ。メーカーや販売店の修理に出された品や、持ち込まれずに処分された品は入らない。したがって本記事の割合を「家電の何割は直る」と読むことはできず、主語は常に「Open Repair の記録では」になる。

規模の目安も書いておく。ORA の発表(2026-10-16)は、電源の無い品の記録も合わせて 619,873 件、41,110 回のイベント、1,728 のグループ、34 か国の記録としている。本記事の集計はこのうち電源のある製品の CSV だけを使うので、上の数字とは分けて扱う。

Open Repair のデータ — 4 つの結果と 6 つの理由の決まり

Open Repair のデータ — 4 つの結果と 6 つの理由の決まり

データは GitHub の openrepair/data に CSV で置かれ、フォームもログインも無しで取得できる(ファイルは Git LFS で管理されている)。ORA の配布ページからも ZIP で取れるが、そちらは Email の入力が必須のフォームの先にある。ORA 自身も、スクリプトで使うなら GitHub から取るよう案内している。本記事は 2026-10-21 のコミット d1b2ab5 にある OpenRepairData_v0.3_aggregate_202607_eee.csv を使った。

ファイル名の v0.3 は記録の取り決め ORDS(Open Repair Data Standard)の版で、202607 はデータの終わりの年月を表す。ORDS は ORA が定めた取り決めで、v0.3 は 2021 年 12 月に公開された。国際規格ではない。ライセンスは CC BY-SA 4.0 で、README・列の定義ファイル(tableschema.json)・配布ページの3か所で同じ表示になっている。

なお、電源の無い品(衣類・家具・食器・自転車など)の記録は別の CSV にある。こちらは直らなかった理由の列の収録がこれからだと ORA が書いているので、本記事では使わない。

CSV は 14 列で、言語を示す列は無い。本記事が使うのは、製品の分類(product_category、40 分類)、修理の結果(repair_status)、直さないと決めた理由(repair_barrier_if_end_of_life)、イベントの日付(event_date)、メモ(problem)の5列だ。

修理の結果は、次の4つの値のどれかを取る。日本語に置き換えると意味がずれやすいので、本記事では英語の値のまま書き、意味を次の表に固定する。

値ORDS v0.3 の定義(当サイトの訳)
Fixed修理する人と持ち主が、その品を使い続けられると納得した。その場で直り、使い続けられる
Repairableその場では直し終えなかったが、次に取る手順か、専門の修理の当てがついた
End of life修理する人と持ち主が、費用か現実性の面から直さないと決めた
Unknown値が空か 0 だった

定義の出典は ORDS v0.3(CC BY-SA 4.0)。訳は当サイトによるもので、この訳も CC BY-SA 4.0 で提供する。

Repairable を「修理可能」と訳すと、その場では直らなかったという肝心の点が落ちる。End of life も「寿命」ではなく、修理する人と持ち主が直さないと決めた判断の記録だ。技術的に直せなかったとは限らない。

直さないと決めた理由は、End of life のときだけ付ける任意の項目で、次の6つから選ぶ。ORDS によると、この列は iFixit との話し合いから、欧州の政策の議論を踏まえて作られた。提供元が記録をこの列に合わせ始めたのは 2021 年からだ。

値(CSV の表記)当サイトの訳
Spare parts not available部品が手に入らない
Spare parts too expensive部品が高すぎる
No way to open product製品を開ける方法が無い
Repair information not available修理の情報が手に入らない
Lack of equipment道具が足りない
Product too worn out製品が使い古されている

値の出典は Open Repair Data の tableschema.json(CC BY-SA 4.0)。訳は当サイトによるもので、この訳も CC BY-SA 4.0 で提供する。

メモの列(problem)は、列の定義では「故障と対処の記述」で、これも任意の項目だ。たとえば先頭から3行目(ドイツの anstiftung の記録で、結果は Fixed)のメモは Netzstecker ersetzt.(訳: 電源プラグを交換した)で、症状ではなく対処が書かれている。ORDS 自身も、メモが自由記述のため今のところ分析しにくいと書いている。この分析しにくい自由記述を AI に読ませるのが、後半の実験である。

メモの引用の出典は Open Repair Alliance, Open Repair Data(CC BY-SA 4.0)。訳文も CC BY-SA 4.0 で提供する。

集計の条件 — 416,282 行を CSV として読み込んで数える

集計の条件 — 416,282 行を CSV として読み込んで数える

集計の条件は、実行の前に決めて固定した。

  • 対象は電源のある製品の CSV の全行。pandas で CSV として読み込んで行を数えた(メモの中の改行を行と数えないよう、テキストの行数では数えない)。結果は 416,282 行で、README と配布ページの表示と一致した。取得したファイルの sha256 も、Git LFS の記録と一致した
  • 結果の割合は、Unknown を含む全行を分母にした
  • 理由の割合は、End of life 104,321 行のうち理由が記入された 44,182 行を分母にした。理由が空の End of life は 60,139 行(104,321 − 44,182)ある
  • 製品の分類ごとにも、同じ分母の取り方で数えた
  • 英語以外(オランダ語・ドイツ語・フランス語など)のメモも除いていない。言語の列が無いためだ

考え方を示す最小の例を置いておく。実際の集計スクリプトそのものではない。

import pandas as pd

df = pd.read_csv("OpenRepairData_v0.3_aggregate_202607_eee.csv", dtype=str)
print(len(df))  # CSV として数えた行数
status = df["repair_status"].value_counts(normalize=True) * 100
eol = df[df["repair_status"] == "End of life"]
reason = eol["repair_barrier_if_end_of_life"].dropna()
share = reason.value_counts(normalize=True) * 100

分母を書き分けるのは、理由の列が空の行が多いからだ。空の行を「部品以外の理由」と読むと、部品の理由を小さく見積もることになる。裏を返せば、本記事の「部品が手に入らない」の件数は、記録された分だけを数えた下限である。

pandas で CSV を読み、列ごとに数えて割合を出す集計に慣れていないなら、データの読み込み・加工・可視化を例題で追える入門書から始めると早い。

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結果 — Fixed は 54.5%、End of life は 25.1%

結果 — Fixed は 54.5%、End of life は 25.1%

全体と、行数が 10,000 行を超える 14 分類の結果を、行数の多い順に表にする。分母は各分類の全行(Unknown を含む)で、分類の日本語は当サイトの訳だ。

分類(ORDS の表記)当サイトの訳行数FixedRepairableEnd of lifeUnknown
(all)全体416,28254.5%17.4%25.1%3.1%
Vacuum掃除機34,84057.3%18.1%22.3%2.2%
Lampランプ29,15870.3%15.2%11.8%2.6%
Power tool電動工具28,29155.2%16.8%26.1%2.0%
Coffee makerコーヒーメーカー24,65148.6%19.5%29.8%2.1%
Small home electrical小型の家庭用電気製品23,85354.3%14.9%26.6%4.2%
Hi-Fi separates単品のオーディオ機器23,44947.1%20.7%28.8%3.4%
Food processorフードプロセッサー21,23353.0%14.3%29.0%3.7%
Small kitchen item小型の台所用品19,47050.7%17.0%29.9%2.4%
Portable radio携帯ラジオ18,39554.4%16.4%26.0%3.2%
Laptopノートパソコン16,95555.5%25.3%15.3%3.9%
Sewing machineミシン16,38370.6%13.7%12.7%3.1%
Watch/clock時計14,73860.6%15.8%19.9%3.8%
Large home electrical大型の家庭用電気製品13,24452.6%19.9%24.8%2.8%
Toasterトースター10,32749.9%11.9%34.9%3.4%

出典: Open Repair Alliance, Open Repair Data(2026 年 10 月版、CC BY-SA 4.0)。swiftwand.com が集計・加工した。この表も CC BY-SA 4.0 で提供する。

全体では、その場で直った Fixed が 54.5%、その場では直し終えなかったが当てがついた Repairable が 17.4%、直さないと決めた End of life が 25.1%、結果の記録が無い Unknown が 3.1% だった(四捨五入のため、合計はちょうど 100% にならない)。この記録では、持ち込まれた家電の半分あまりが、その場で使い続けられる状態に戻ったことになる。

分類で見ると差がある。表の中で Fixed が高いのはミシン(70.6%)とランプ(70.3%)で、End of life が最も高いのはトースター(34.9%)だった。これは表の 14 分類の中での比較で、行数がそれより少ない分類まで含めると、End of life がトースターより高い分類もある。また、ノートパソコンは End of life が 15.3% と低い代わりに、Repairable が 25.3% と表の中で最も高い。その場では直し終えず、次の手順や専門の修理に回る記録が多いということだ。

ただし、これは分類の中身をそろえた比較ではない。分類ごとの差には、品物の作りの違いだけでなく、どのグループがどの品を多く受け付けたかといった記録の偏りも混じっている可能性がある。表から読めるのは「この記録ではこうだった」までで、「トースターは直りにくい家電だ」とまでは言えない。

直さないと決めた理由 — 部品の理由が 43.2%

直さないと決めた理由 — 部品の理由が 43.2%

理由が記入された End of life の行で、6つの理由の割合を出した。

理由(CSV の表記)当サイトの訳割合
Spare parts not available部品が手に入らない28.7%
Product too worn out製品が使い古されている19.2%
Repair information not available修理の情報が手に入らない17.8%
No way to open product製品を開ける方法が無い15.7%
Spare parts too expensive部品が高すぎる14.5%
Lack of equipment道具が足りない4.0%

分母は理由が記入された End of life 44,182 行で、理由が空の End of life 60,139 行は含まない。出典: Open Repair Alliance, Open Repair Data(2026 年 10 月版、CC BY-SA 4.0)。swiftwand.com が集計・加工した。この表も CC BY-SA 4.0 で提供する。

最も多いのは “Spare parts not available” の 28.7% だった。”Spare parts too expensive” の 14.5% と合わせると、部品に関わる理由が 43.2%(28.7+14.5)を占める。続いて “Product too worn out” が 19.2%、”Repair information not available” が 17.8%、”No way to open product” が 15.7% で、”Lack of equipment” は 4.0% にとどまった。

部品以外の理由も小さくはない。”Repair information not available” と “No way to open product” を合わせると 33.5%(17.8+15.7)で、”Spare parts not available” の 28.7% を上回る。ただし、この列には1行に1つの値しか入らない。複数の事情が重なっていても、記録の上ではどれか1つになっている点には注意が要る。

次に、理由の記入が年によってどう変わるかを見る。イベントの年ごとに、全行・End of life の行数・そのうち理由が記入された行数を並べた。

イベントの年全行End of lifeうち理由あり
20122100
2013302930
20148282004
20151,22723718
20162,83451441
20177,7601,70385
201813,5953,342216
201922,3175,754775
202011,0452,960680
202112,3903,1351,518
202235,3568,7374,132
202363,82516,4407,441
202488,58622,65710,608
2025100,26224,90812,121
2026(7 月末まで)55,93413,6416,543

出典: Open Repair Alliance, Open Repair Data(2026 年 10 月版、CC BY-SA 4.0)。swiftwand.com が集計・加工した。この表も CC BY-SA 4.0 で提供する。

2019 年は End of life 5,754 行のうち理由が記入されたのが 775 行だった。これが 2021 年には 3,135 行のうち 1,518 行、2025 年には 24,908 行のうち 12,121 行になる。それでも、2021 年以降のどの年を見ても、記入された行は End of life の半分に届かない。理由の列は任意の項目で、ORDS も 2021 年からこの列に合わせて記録が集められ始めたと書いている。

このため、「部品が手に入らない」が 28.7% という値は、理由が記入された End of life の中での割合だ。件数で見れば、記録された分の下限にあたる。理由が空の 60,139 行がどの理由だったかは、このデータからは分からない。

分類別に見る家電の故障の理由 — 件数の多い分類ではケトル・トースター・ランプに「部品が手に入らない」が多い

分類別に見る家電の故障の理由 — 件数の多い分類ではケトル・トースター・ランプに「部品が手に入らない」が多い

同じ理由の割合を、分類ごとに出した。分母は各分類の、理由が記入された End of life の行数だ。表には、この行数が 1,000 行以上ある 15 分類(以下、件数の多い分類)を、”Spare parts not available” の割合の高い順に載せた。

分類当サイトの訳理由ありの End of life部品が手に入らない部品が高すぎる製品を開ける方法が無い修理の情報が手に入らない道具が足りない製品が使い古されている
(all)全体44,18228.7%14.5%15.7%17.8%4.0%19.2%
Kettle電気ケトル1,76537.9%13.3%12.7%9.1%2.0%25.0%
Toasterトースター1,60237.2%15.7%15.9%10.0%2.3%18.9%
Lampランプ1,49635.6%7.4%16.9%18.6%5.0%16.4%
Portable radio携帯ラジオ2,06432.8%10.5%10.6%23.9%4.7%17.6%
Small kitchen item小型の台所用品2,36832.1%17.0%16.5%12.6%3.0%18.8%
Watch/clock時計1,09831.4%6.1%15.9%18.2%8.7%19.7%
Large home electrical大型の家庭用電気製品1,33830.4%20.3%8.7%18.5%4.9%17.1%
Food processorフードプロセッサー3,08029.9%10.6%23.8%13.3%2.8%19.6%
Hi-Fi separates単品のオーディオ機器2,52729.4%10.5%11.2%25.6%4.7%18.6%
Power tool電動工具3,25328.2%21.2%9.9%13.2%3.5%24.0%
Small home electrical小型の家庭用電気製品2,91527.1%10.4%16.8%17.3%2.8%25.6%
Hair & beauty item理美容の品1,09225.5%10.4%32.7%12.2%2.0%17.1%
Ironアイロン1,14624.3%18.8%25.0%9.2%2.9%19.9%
Coffee makerコーヒーメーカー2,86421.9%22.2%19.5%17.5%3.2%15.8%
Vacuum掃除機3,43021.6%23.6%16.3%14.7%2.8%21.0%

出典: Open Repair Alliance, Open Repair Data(2026 年 10 月版、CC BY-SA 4.0)。swiftwand.com が集計・加工した。この表も CC BY-SA 4.0 で提供する。

件数の多い分類で “Spare parts not available” の割合が高いのは、電気ケトル(37.9%)、トースター(37.2%)、ランプ(35.6%)だった。3つとも全体の 28.7% を上回る。どれも、記録の上では部品が無いことが直さない判断に結びついた割合が大きい分類である。ただし、理由ありの行が 1,000 行に満たない分類まで含めると、これより割合の高い分類もある。

掃除機は様子が違う。”Spare parts too expensive” が 23.6% で、”Spare parts not available” の 21.6% を上回った。コーヒーメーカーも “too expensive” が 22.2%、”not available” が 21.9% とほぼ並ぶ。部品はあっても値段が合わなかった記録が、ケトルやトースターより目立つ。

ほかの理由が前に出る分類もある。たとえば理美容の品では “No way to open product” が 32.7% で最も多く、アイロン(25.0%)とフードプロセッサー(23.8%)でも高い。単品のオーディオ機器(25.6%)と携帯ラジオ(23.9%)では、”Repair information not available” の割合が全体の 17.8% より高い。

ここでも分類の誤りに注意したい。ORA 自身が、提供元の分類が不揃いな例として、電源の無い家庭用品の分類にトースターが入っていた例を挙げている。提供元の分類がずれていれば、対応付けた後の分類にもずれが残りうる。CSV の先頭の数行でも、体重計(Personenwaage)が Hair & beauty item に対応付けられていた。分類ごとの値には、名前から想像する品とは別の品が混じりうる。

メモから理由を AI に当てさせる — 実験の条件

メモから理由を AI に当てさせる — 実験の条件

理由が空の End of life は 60,139 行ある。もしメモから理由を読み取れるなら、空の行を補う手がかりになる。そこで、理由がすでに記入された行を使い、メモだけから同じ理由を当てられるかを確かめた。

条件は次のとおりで、実行の前に固定した。

  • 対象: End of life で理由が記入され、メモが 20 文字以上ある 24,685 行
  • 抽出: 6つの理由ごとに 50 行、計 300 行(乱数の種 20261026)。理由ごとの行数をそろえたので、記録全体の理由の比率とは違う
  • AI に渡したもの: 製品の分類とメモだけ。6つの理由か “Cannot tell”(読み取れない)のどれか1つを選ばせた。25 行ずつまとめて渡した
  • 言語: 英語以外のメモもそのまま渡した
  • 正解: データのラベル(ボランティアが記録した理由を ORA が対応付けた値)
  • モデル: claude -p(モデルは claude-sonnet-5-5。ツール・MCP・設定ファイルを使わず、ホームフォルダの外のフォルダで実行)と、手元の gemma4:12b(Ollama 0.40.11、温度 0、文脈の長さ num_ctx 16384)
  • 回数: 各条件 1 回

AI に渡した記録の形は、次のような JSON の並びだ。メモの原文はここには載せない。

[
  {"id": "<記録の ID>", "product_category": "Kettle", "problem": "<メモの原文>"},
  {"id": "<記録の ID>", "product_category": "Vacuum", "problem": "<メモの原文>"}
]

この実行で当てさせたのは理由だけだ。メモには対処も書かれる(先の Netzstecker ersetzt. のように)ので、直ったかどうかを問うと、記述の中の結果を読むだけになりうる。理由のほうは、メモとは別の欄でボランティアが選んでいるため、メモから読み取れるかどうかが問いとして成り立つ。

手元の gemma4:12b には、途中で条件を1つ足した。思考あり(答える前に考える過程を出力する設定)で最初に実行したところ、25 行ずつに分けたすべての回で思考が文脈の上限に達し、答えを返さなかった。この結果はそのまま数え、別に思考を切った条件を加えた。

AI の結果 — 300 行のうち 163 行で「読み取れない」

AI の結果 — 300 行のうち 163 行で「読み取れない」

3つの条件の結果を並べる。正解率は、理由を選んだ行での値と、300 行全体での値の両方を書いた。

条件行数理由を選んだCannot tell答えなし正解選んだ行での正解率300 行での正解率
claude -p30013716307353.3%24.3%
gemma4:12b(思考あり)300003000—(答えが無い)0.0%
gemma4:12b(思考なし)30010919105146.8%17.0%

正解はデータのラベル。出典: Open Repair Alliance, Open Repair Data(2026 年 10 月版、CC BY-SA 4.0)。swiftwand.com が抽出・集計した。この表も CC BY-SA 4.0 で提供する。

claude -p は、300 行のうち 163 行(54%)で “Cannot tell” を選んだ。理由を選んだ 137 行の正解は 73 行で、選んだ行での正解率は 53.3%、300 行全体で見ると 24.3% になる。

手元の gemma4:12b は、思考ありでは1行も答えなかった。思考を切ると 109 行で理由を選び、正解は 51 行(46.8%)だった。”Cannot tell” は 191 行で、claude -p よりも多い。

2つのモデルとも(gemma4:12b は思考なし)、半分を超える行で「読み取れない」を選んだ。メモに理由そのものが書かれていない行が多い、と考えると説明がつく。さらに、理由を選んだ行でも、正解は半分前後にとどまった。

AI の答えをラベルと照らして正解率を出す手順は、LLM の答えを評価する考え方そのものだ。評価のデータを用意して比べながら使い方を決める進め方は、評価駆動開発の本にまとまっている。

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理由ごとの当たりやすさ — 「製品を開ける方法が無い」は当たり、「部品が高すぎる」は外れやすい

理由ごとの当たりやすさ — 「製品を開ける方法が無い」は当たり、「部品が高すぎる」は外れやすい

理由ごとに、AI が理由を選んだ行数と正解の行数を並べる。各理由 50 行のうち、”Cannot tell” 以外を選んだ行を「選んだ」と数えた。

データのラベルclaude -p 選んだclaude -p 正解claude -p Cannot tellgemma4:12b(思考なし)選んだgemma4:12b(思考なし)正解
Lack of equipment251025217
No way to open product2517252017
Product too worn out21152997
Repair information not available1911311911
Spare parts not available271423213
Spare parts too expensive20630196

出典: Open Repair Alliance, Open Repair Data(2026 年 10 月版、CC BY-SA 4.0)。swiftwand.com が抽出・集計した。この表も CC BY-SA 4.0 で提供する。

当たりやすかったのは “No way to open product” だ。claude -p は選んだ 25 行中 17 行、gemma4:12b(思考なし)も 20 行中 17 行で当たった。”Product too worn out” も、claude -p は 21 行中 15 行で当たっている。どちらも、品物そのものの状態を指す理由である。

反対に、”Spare parts too expensive” は claude -p で 20 行中 6 行しか当たらなかった。外れた 14 行は、”Spare parts not available” が 7 行、”Product too worn out” が 6 行、”Lack of equipment” が 1 行だった。部品の値段がメモに書かれていなければ、部品が手に入らなかったのか、手に入るが高かったのかは区別できない。高すぎるかどうかは持ち主とボランティアがその場で決めたことで、メモの外にあると考えられる。

“Spare parts not available” 自体も、claude -p は選んだ 27 行中 14 行の正解で、10 行を “Product too worn out” と答えた。gemma4:12b(思考なし)では 21 行中 3 行しか当たっていない。部品が無いことと品物が古いことは、メモの上では近い書き方になりうる。

取り違えの向きにも偏りがあった。claude -p が “Product too worn out” と答えた行は 40 行(取り違えの表の該当列の和: 5+3+15+1+10+6)で、そのうち正解は 15 行だった。ほかに “Lack of equipment” は選んだ 25 行中 10 行の正解で、8 行を “Spare parts not available” と答えている。”Repair information not available” は “Cannot tell” が 31 行と、6つの理由の中で最も多かった。

読み方 — メモは症状と対応の欄、理由は別の欄

読み方 — メモは症状と対応の欄、理由は別の欄

この結果は、Open Repair の記録の作りから読むと分かりやすい。メモ(problem)は故障の症状と、その場で何をしたかを書く欄だ。一方、直さないと決めた理由は、ボランティアが別の欄で6つから選んでいる。メモは理由を書く場所ではない。

だからこそ、理由の欄があることに意味がある。「部品が手に入らない」が 28.7% だと数えられるのは、ボランティアがその場で理由を選んだからだ。メモだけから同じことをしようとすると、この実行では claude -p が半分を超える行で「読み取れない」と答え、理由を選んだ行でも正解は半分ほどだった。理由が空の 60,139 行を AI で埋めれば、外れた答えが混じった数になる。

それでは AI に任せられる部分はどこか。この実行から言えるのは、理由の判定を任せるには足りないということまでだ。メモの整理、たとえばどの部品の話かを拾う、言語をそろえる、といった作業なら役に立つ可能性はある。ただし、それはこの実行では確かめていない。

ここで、正解のラベル自体の弱さにも触れておく。ORA は、提供元のデータが ORDS の形にぴったり対応することはまれだと書き、対応付けが難しい項目に修理の結果と直らなかった理由を挙げている。したがって、AI の答えとラベルが食い違った行のすべてが AI の誤りとは限らない。ラベルのほうが対応付けの過程でずれている行も、混じっている可能性がある。

記録を付ける側から見れば、理由の欄をその場で選んでおくことが、後から数えられるデータを残す確かな方法になる。この実行では、理由が分かっている 300 行のメモを AI に読ませても、同じ理由を選び直せたのは claude -p で 73 行だった。

EU の修理する権利の対象品目と照らす — 分類が合うのは一部だけ

EU の修理する権利の対象品目と照らす — 分類が合うのは一部だけ

部品の入手と値段は、制度の側でも扱われている。EU の「修理する権利」の指令(指令 2024/1799)は、加盟国が 2026 年 7 月 31 日から適用を始める EU の制度で、日本の消費者に直接適用されるものではない。この節は、2026 年 10 月時点の指令と規則の条文を読んで整理した一般的な制度の説明で、法的助言ではない。柱の一つは製造者の修理義務だ。指令の附属書 II の品目について、その品目の EU の規則が修理可能性の要件を定める範囲で、修理が不可能な場合を除き、消費者の求めに応じて製造者が修理する義務である。対象は売主の法定責任(法定保証)が及ばない故障で、法定保証の期間が過ぎた後のほか、期間内でも消費者が原因の故障など売主の責任にならない故障を含む。修理は無償か妥当な価格で行う。

この修理義務の対象になる附属書 II の品目は、2026 年 10 月時点で次の 11 項目ある。

  • 家庭用洗濯機・洗濯乾燥機
  • 家庭用食器洗い機
  • 冷蔵・冷凍機器
  • 電子ディスプレイ
  • 溶接機器
  • 掃除機
  • サーバー・データストレージ製品
  • 携帯電話・コードレス電話・タブレット
  • 家庭用衣類乾燥機
  • 軽量の移動手段用バッテリーを組み込んだ製品
  • 家庭用の局所暖房機(部屋を直接暖める暖房機で、電気・ガス・液体燃料を含む。委任指令 2026/74 で追加。2026-01-12 採択、2026-04-20 官報掲載、2026-07-31 から適用)

電気ケトル・トースター・ランプは、この 11 項目に名前が無い。Open Repair の記録の件数の多い分類で “Spare parts not available” の割合が高かった3つの分類は、いずれも指令の修理義務の対象外である。

次に、11 項目を ORDS の 40 分類に当てはめる。名前の上で対応がつくのは、掃除機(Vacuum)、携帯電話とタブレット(Mobile・Tablet)、電子ディスプレイに近い Flat screen(ORDS の説明は TVs and monitors)だ。洗濯機・食器洗い機・冷蔵庫・衣類乾燥機には単独の分類が無い。CSV の先頭の行では、洗濯機(Waschmaschine)が、ORDS が芝刈り機やフィットネス機器を例に挙げる Large home electrical に入っていた。局所暖房機も単独の分類が無く、ファンヒーターは扇風機と同じ Fan に入る。これらの品目は、この分類では分けられない。溶接機器・サーバー・バッテリーを組み込んだ製品は、本記事では照らしていない。

対応がつく掃除機は、上の結果の表の中で行数が最も多い分類(34,840 行)だった。その理由では “Spare parts too expensive” が 23.6% で、”Spare parts not available” の 21.6% を上回る。指令は、附属書 II の品目の部品と工具を出している製造者に、修理をためらわせない妥当な価格で出すことを求めている(第 5 条 4 項)。この記録の掃除機で多かった「部品が高すぎる」は、指令が扱う論点と重なる。

ただし、このデータから指令の効果は読めない。記録は 2026 年 7 月末までで、指令の適用が始まる時点で終わっている。しかも最大の提供元は英国の団体で、ORA の会員ページに並ぶ提供元には、カナダやニュージーランドの団体も含まれる。

部品の供給年数も書き分けておく。指令そのものは、部品を何年出すかを定めていない。供給年数を定めるかどうかと、その年数は、附属書 II が品目ごとに挙げる EU の規則(多くはエコデザイン規則)による。局所暖房機の規則(規則 2024/1103)では、電気式の局所暖房機の制御部・サーモスタット・基板・表示部・ボタン類などの部品を、2025-07-01 以降に出荷されるモデルについて、プロの修理業者に、そのモデルの最後の 1 台の出荷から少なくとも 10 年供給する。利用者も買える部品として規則が挙げるのはリモコンだ。部品は注文から 10 営業日以内に届ける。部品が誰でも 10 年買えるわけではない。洗濯機など他の品目の年数は、本記事では調べていない。

もう一つ、3Dプリントに関わる条文がある。指令の第 5 条 6 項は、附属書 II の品目について、製造者は、独立した修理業者が、安全などの法令の要件に適合する 3D プリントの部品を使うのを妨げてはならない、と定める(知的財産の保護は別)。主語は製造者で、対象は独立した修理業者だ。消費者が自作の部品で直す権利を定めたものではない。制度の全体は 家電の電気代と故障に AI で向き合う — 冬の前に測る・直す・作るをそろえる理由と、EU の修理する権利で変わったこと(2026-11-02 公開) にまとめた。

「修理する権利」の考え方を、米国の法学者が修理の歴史と、修理を阻む設計・法律の仕組みから整理した本の翻訳がある。EU の指令が何を変えようとしているのかを考える背景として読める。

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この集計と実行で言えないこと

この集計と実行で言えないこと

結果を読むときの限界を、まとめて書いておく。

  • 世の中の家電の故障全体の割合ではない。修理イベントに持ち込まれ、記録され、ORA に提供された品だけの値だ
  • 理由の割合は、理由が記入された End of life の中の値である。理由が空の 60,139 行を含めたときに比率がどう変わるかは分からない。「部品が手に入らない」の件数は下限だ
  • 分類は対応付けの誤りを含む。体重計が Hair & beauty item に入っていた例のように、分類ごとの値には別の品が混じりうる
  • AI の実行は各条件 1 回。乱数の種を変えた抽出や、渡し方を変えた実行はしていない
  • 抽出は理由ごとに 50 行ずつで、記録全体の理由の比率に合わせていない。53.3% はこの 300 行での値で、理由が空の行に当てはめたときの正解率ではない
  • メモが 20 文字以上の行だけを使った。短いメモの行は含まない
  • 正解はデータのラベルで、対応付けの誤りを含みうる。不一致のすべてが AI の誤りとは限らない
  • 英語以外のメモを除いていない。言語ごとの当たりやすさは数えていない
  • gemma4:12b の思考ありが答えなかったのは、文脈の長さ 16384 での結果。文脈を広げた条件は試していない
  • 当サイトは家電を修理していない。修理の結果はすべて記録の値で、分解や部品の確認はしていない
  • Open Repair 以外の修理データは調べていない。直らなかった理由を選択肢で持つ公開データがほかにあるかは確かめていない

まとめ — 部品が手に入らない故障のうち、3Dプリントで作ってよい部品はどれか

まとめ — 部品が手に入らない故障のうち、3Dプリントで作ってよい部品はどれか
  • Open Repair(2026 年 10 月版)の電源のある製品 416,282 行では、Fixed 54.5%、Repairable 17.4%、End of life 25.1%、Unknown 3.1% だった。いずれも修理イベントに持ち込まれた家電の記録での値だ
  • 理由が記入された End of life 44,182 行では、”Spare parts not available” が 28.7% で最も多く、”Spare parts too expensive” と合わせて部品の理由が 43.2% だった。理由の記入は 2021 年以降に増えたが、どの年も End of life の半分に届かず、件数は下限になる
  • 分類別では、理由が記入された End of life が 1,000 行以上ある分類のうち、電気ケトル(37.9%)・トースター(37.2%)・ランプ(35.6%)で “Spare parts not available” が多く、掃除機では “Spare parts too expensive” が 23.6% と多かった
  • 製品の分類とメモだけから理由を当てさせると、claude -p は 300 行中 163 行で「読み取れない」と答え、選んだ 137 行の正解は 73 行だった。gemma4:12b は思考なしで 109 行を選び、51 行が正解だった
  • メモは症状と対応の欄で、理由は別の欄で選ばれている。理由の判定は人の記入が要り、AI に頼れるとすればメモの整理の側だ(この実行では未確認)

部品が手に入らずに直さないと決めた家電の故障は、理由が記入された行の中で 28.7% を占める。では、その中に 3Dプリントで作ってよい部品はどれだけあるのか。作れるかどうかとは別に、熱・電気・食品に関わる部分を含めて、作ってよいかの線を先に引く必要がある。1つの部品を採寸して作る手順は 3Dプリント 修理 実践 2026 — 廃番部品を採寸とAI CADで蘇らせる(2026-07-25 公開) で扱った。

なお、家電を開けて部品を確かめる作業は、メーカーの保証の扱いに関わることがあり、感電の危険もある。本記事は分解の手順を扱わない。

部品を作る話に進む前に、まず壊れた部品の寸法を正しく測れる道具が要る。

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参照

本記事の表は、Open Repair Alliance「Open Repair Data」2026 年 10 月版(2026 年 7 月末までの記録、ORDS v0.3、作成者表記 Monique Szpak・Neil Mather、CC BY-SA 4.0、github.com/openrepair/data)を swiftwand.com が集計・加工したもので、CC BY-SA 4.0 で提供する。Open Repair Alliance が本記事の分析を承認・後援したものではない。

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