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家電の電気代と故障に AI で向き合う — 冬の前に測る・直す・作るをそろえる理由と、EU の修理する権利で変わったこと

ゲンキ

冬が近づいて暖房器具を出すころになると、家電の電気代が気になり始める。同じころ、何年も使ってきた家電が動かなくなり、直すか買い替えるかを決めなければならないこともある。電気代と故障は別々の悩みに見えるが、どちらも「どの家電が、どれだけ電気を使い、どこが壊れたのか」が分からないと判断できない。本記事は、この二つを AI と公開データで扱うための土台を作る。

2026 年の夏から秋にかけて、この話題に関わる公式の動きが重なった。英国では、エネルギー規制機関 Ofgem が定める電気・ガス料金の上限が 10 月 1 日に改められ、次の上限は 11 月 25 日までに公表される。米国のエネルギー情報局(EIA)は 10 月 6 日に冬の燃料費の見通しを出した。そして EU では、「修理する権利」の指令(指令 2024/1799)が 2026 年 7 月 31 日から適用され、家庭用の局所暖房機も修理義務の対象の品目に加わった。

※本記事にはアフィリエイト広告(PR)が含まれます。

本記事で扱うのは次の四つだ。

  1. 英国・米国・日本の冬の電気代について、各国の公式の値が何を表しているか
  2. 家電の電気代を「電力量 × 単価」の式で読む方法
  3. 英国の公開データ REFIT の 1 軒で、家電ごとの計測器が家全体の電気のどれだけを捉えていたか
  4. EU の修理する権利で何が変わり、何が変わっていないか。3D プリントの部品について条文が何を言っているか

なお、当サイトは手元の家電を測っていない。数値はすべて公開データと公式の資料の値で、REFIT の集計は当サイトが Python のスクリプトで行った 1 回の計算である。法律の記述は条文と欧州委員会の発表・説明資料を読んで整理したもので、法的助言ではない。

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冬の電気代はいまどうなっているか — 英国・米国・日本の公式の値

冬の電気代はいまどうなっているか — 英国・米国・日本の公式の値

最初に、三つの国の値を一つずつ見る。ただし、三つは定義が違う。英国の値は「上限」、米国の値は「見込み」、日本の値は「目安」だ。さらに本記事は為替の値を取っていない。そのため、三つを円に換算して横に並べることはせず、それぞれの国の中で読む。

英国: Ofgem の上限は単価と基本料にかかる

Ofgem は、標準的な料金プラン(標準変動料金)で電力会社が請求できる単価と基本料に上限を設けている。2026 年 8 月 26 日の公表によると、10 月 1 日〜12 月 31 日の電気の上限は、口座振替の場合で平均 26.32 ペンス/kWh、基本料は 1 日あたり 54.83 ペンスだ。これはイングランド・スコットランド・ウェールズの平均で、北アイルランドは含まない。

ここで押さえたいのは、上限がかかるのは単価と基本料で、請求額ではないという点である。Ofgem は、電気とガスの両方を使う典型的な家庭の年額の目安が £1,663 から £60 上がって £1,723 になるとしている。しかしこれは「この水準で 1 年使った場合」の目安であり、請求額の上限ではない。使う電力量が増えれば、請求額はそのぶん増える。また、固定料金の契約を選んでいる家庭は、上限の改定の影響を受けない。ガスを使わない家庭の上がり幅は 1% 未満とされている。

もう一つの注意は税である。英国政府は 2026 年 10 月 1 日から 2027 年 3 月 31 日まで電気の VAT(付加価値税)をなくした。このため 26.32 ペンスは VAT を含まない値で、ガスには 5% の VAT が残る。Ofgem 自身が、この変更のために前の期間の値とそのまま比べられないと書いている。年額の目安も、2026 年 7 月に改めた典型的な使用量で計算されている。

次の上限(2027 年 1 月 1 日〜3 月 31 日分)は 11 月 25 日までに公表される。Ofgem は、外部の事情があればそれより早く公表することもあるとしている。本記事の公開日(11 月 2 日)の時点で有効なのは 10〜12 月の値で、1 月以降の値は公表後に Ofgem の発表で確かめる必要がある。

米国: EIA は電気で暖房する家庭の冬の電気代を見込む

EIA の Winter Fuels Outlook 2026-27(2026 年 10 月 6 日公表)は、主な暖房の燃料ごとに、冬(11〜3 月)に家庭が払う燃料費を見込んでいる。電気を主な暖房に使う家庭については、家庭向けの電気の単価が 3% 上がり、使用量もやや増えるため、電気代は 4% 増えると見込む。

同じページの表では、電気を主な暖房に使う家庭の全米平均が、11〜3 月の合計で支出 1,196 ドル、使用量 6,562 kWh、単価 18.23 セント/kWh となっている。月別の支出は、11 月 213 ドル、12 月 253 ドル、1 月 270 ドル、2 月と 3 月がそれぞれ 230 ドルだ。

読むときの注意は三つある。第一に、これは基準ケースの見込みで、実績ではない。第二に、この支出と使用量は「主な暖房の燃料として使う電気」の分で、暖房だけの費用ではない。電気で暖房する家庭が冬に払う電気代の見込みとして読むのが正確だ。第三に、EIA 自身が、燃料費の安い燃料に替えれば安くなると考えないよう注意している。

日本: 目安単価 31 円/kWh と、冬の支援の状況

家電のカタログに載る電気代は、全国家庭電気製品公正取引協議会(家電公取協)が定める目安単価で計算されている。現在の目安単価は 31 円/kWh(税込)で、令和4年7月22日に改定された値だ。2026 年 10 月 26 日に確かめた時点でも、この値は変わっていない。当サイトは同じ目安単価を、3Dプリントの原価を日本の電気代で計算し直す — 値付けの根拠を作る(2026-08-19 公開)で 3D プリンターの電気代の計算にも使った。

ただし、家電公取協自身が「電力料金は、ご契約の小売電気事業者により異なります」と書いている。目安単価はカタログの値をそろえるための共通の物差しで、自分の家の単価ではない。自分の電気代を計算するときは、契約先の明細に載っている単価を使うほうが実態に近い。

冬の支援については、まだ決まっていない。経済産業省 資源エネルギー庁の「電気・ガス料金支援」の特設サイトに載っているのは 2026 年 7〜9 月使用分までで、冬の使用分の支援は、2026 年 10 月 26 日の時点で政府の正式な発表が見当たらない。共同通信(2026 年 10 月 21 日)は、政府が冬の電気・ガス料金を補助する方向で検討に入ったと報じている。本記事は冬の補助の有無や金額を前提にしない。公開日以降に決まった内容は、特設サイトで確かめてほしい。

家電の電気代は「電力量 × 単価」で読む

家電の電気代は「電力量 × 単価」で読む

国ごとの値の違いを見たうえで、計算の形をそろえておく。家電の電気代は、次の式で読める。

電気代 = 電力量(kWh)× 単価(円/kWh、ペンス/kWh、セント/kWh)
電力量(kWh)= 消費電力(W)× 使った時間(h)÷ 1000

単価は、読者が自分の契約の値を入れる部分だ。例として使える値は、上で見た三つになる。日本なら家電公取協の目安単価 31 円/kWh、英国なら Ofgem の 10〜12 月の上限 26.32 ペンス/kWh、米国なら EIA が見込む電気暖房の家庭の 11〜3 月の平均 18.23 セント/kWh である。どの値も、それぞれの出典と日付の条件の中でだけ意味を持つ。

この式が実際の数字で成り立つことは、EIA の表で確かめられる。電気暖房の家庭の 11〜3 月の使用量 6,562 kWh に単価 18.23 セント/kWh を掛けると、6,562 × 18.23 = 約 119,625 セントで、約 1,196 ドルになる。表に載っている支出 1,196 ドルと合う。表の三つの値は、この式でつながっている。

一方で、式には入らない料金もある。英国の上限には 1 日 54.83 ペンスの基本料があり、これは電力量にかかわらず日数でかかる。英国の家庭の電気代を上限の単価と基本料で書くなら、「電力量 × 26.32 + 日数 × 54.83」(単位はペンス)になる。ただ、基本料は家全体にかかる料金なので、家電ごとの電気代を考えるときには電力量の部分だけを見ればよい。日本の契約の料金の内訳は、契約先の約款や明細で確かめたい。

ここまでの計算は単純だ。難しいのは、式に入れる「家電ごとの電力量」を知ることである。電力会社の明細に載るのは家全体の電力量で、どの家電が何 kWh を使ったかは分からない。家電の電気代を一つずつ考えるには、家電ごとに測る必要がある。では、家電ごとに測ると何が見えて、何が見えないのか。次の節で公開データの 1 軒を読む。

家電ごとの電力量は、コンセントと家電の間に挿すスマートプラグで記録できる。Tapo P110M はアプリで電力と電力量を見られる製品で、最大負荷は 1500 W だ。

公開データで 1 軒の冬を読む — REFIT の House 1

公開データで 1 軒の冬を読む — REFIT の House 1

使ったデータと計算のしかた

REFIT は、英国ラフバラの 20 軒で家全体と家電ごとの電力を測ったデータセットだ。University of Strathclyde などの研究チームが公開しており、期間は 2013〜2015 年(配布ページの表記では 2013 年 10 月〜2015 年 6 月)、値は公称 8 秒間隔のワット(有効電力)である。実際の行の間隔はそろっていない。各家では、コンセントに差し込む型の測定器(IAM)で 9 台の家電を測り、それとは別に家全体の電力を測っている。ライセンスは CC BY 4.0 だ。

家を選ぶ前に、データの性質を確かめておく。論文によると、REFIT の家はすべて、主な暖房がガスのセントラルヒーティングで、ほかの空調設備は無い。そのうえで本記事は、電気の暖房器具を測っている 3 軒(House 1・9・16)を計算し、主に House 1 を読む。House 1 は 2 人暮らしで、1975〜1980 年築の 4 寝室の戸建て、家電は 35 台ある。太陽光発電の影響を配線の工事で取り除いてあるので、家全体の値に発電が混じらない(House 3・11・21 は混じるため、全体に対する割合の計算には使えない)。

計算は次の規則で行った。

  • 電力量は「各行のワット × 次の行までの秒数」を足し上げて出す。次の行まで 120 秒を超えて空いている区間と、測った家電の合計が家全体を上回った行(Issues 列が 1 の行)は数えない
  • 1 日のうちデータのある時間が 23 時間未満の日は外す。日の区切りは英国の現地時刻
  • 「冬」は 2014 年 12 月 1 日〜2015 年 2 月 28 日とし、House 1 では条件を満たした日が 87 日あった(全期間では 480 日)
  • 家電の名前は、配布元(University of Strathclyde)の README の家電の一覧による。データは配布元から取得し、House 1 のファイルは Zenodo の写し(DOI 10.5281/zenodo.5063428)と同じであることを確かめた
  • 「測っていない分」は、家全体の電力量から 9 台の合計を引いた残りである

結果: 9 台を測っても、冬の家全体の 26.2% しか見えていなかった

House 1 の結果を表にする。値は 1 日あたりの電力量(kWh/日)と、家全体に対する割合だ。

家電(README の名前)冬 kWh/日冬の全体比全期間 kWh/日全期間の全体比
家全体(Aggregate)14.125100.0%10.694100.0%
冷蔵庫(Fridge)0.382.7%0.4083.8%
冷凍庫 1(Freezer(1))0.312.2%0.3953.7%
冷凍庫 2(Freezer(2))0.6834.8%0.6916.5%
洗濯乾燥機(Washer Dryer)0.0250.2%0.0270.3%
洗濯機(Washing Machine)0.3612.6%0.2021.9%
食器洗い機(Dishwasher)0.3642.6%0.2562.4%
パソコン(Computer)0.0950.7%0.0590.6%
テレビ周り(Television Site)0.1310.9%0.1371.3%
電気の暖房器具(Electric Heater)1.3459.5%1.19511.2%
測っていない分10.4373.8%7.32368.5%

冬の家全体は 1 日 14.125 kWh だった。そのうち、9 台の測定器が捉えたのは 26.2%(100 − 73.8)で、残りの 73.8% は測っていない家電の分である。つまり、家電ごとの計測器を 9 台付けても、冬の家全体の約 4 分の 3 は見えていなかった。測っていない分には、照明、調理器具、測定器を付けていないコンセントの家電などが入る。

この傾向は House 1 だけのものではなかった。同じ計算で、House 9 と House 16 でも、冬の測っていない分は家全体の 66〜68% だった。

読み方

数字を四つの点から読む。

第一に、測った 9 台の中では、電気の暖房器具が冬に 1 日 1.345 kWh・家全体の 9.5% で最も大きかった。ただし、冷蔵庫と冷凍庫 2 台を足すと 0.38 + 0.31 + 0.683 = 約 1.37 kWh/日になり、暖房器具とほぼ同じになる。冷やす家電は 1 台ずつは小さくても、台数が重なると積み上がる。

第二に、暖房器具の全期間の平均は 1 日 1.195 kWh で、冬の 1.345 kWh と大きくは変わらない。ただし、これは季節による差が小さいという意味ではない。同じデータを月ごとに見ると、この暖房器具は 5〜10 月にはほとんど使われておらず、使われたのは 11〜4 月だった。一方で、本記事の冬に含めた 2015 年 1 月はほとんど使われていない。全期間の平均には、より多く使われた 2013〜14 年の冬や 2015 年 3 月が入っている。1 日あたりの平均は、どの月を含めるかで大きく変わる。REFIT の家は主な暖房がガスで、この暖房器具は補助の暖房である。

第三に、家全体は冬のほうが多い(冬 14.125 kWh/日、全期間 10.694 kWh/日)。しかし、増えた分の大半は測っていない分の増加(冬 10.43 kWh/日、全期間 7.323 kWh/日)である。冬に何の電気が増えたのかは、このデータからは分からない。測っていない家電の中身が見えないからだ。

第四に、論文の集計と照らす。論文の表では、House 1 で測定器が捉えた電力量の割合は 35%(測定期間全体)とされている。本記事の全期間の値は 100 − 68.5 = 31.5% で、同じ程度の値になった。本記事は清掃済みのデータを使い、上の規則で日や区間を外しているので、論文の値とは一致しない。

式に入れてみる

この 1 軒の値を、前の節の式に入れる手順を示す。House 1 の冬の暖房器具は 1 日 1.345 kWh だった。30 日続けると次のようになる。

電力量 = 1.345 kWh/日 × 30 日 = 40.35 kWh
電気代 = 40.35 kWh × 契約の単価
(例)家電公取協の目安単価 31 円/kWh を入れると 40.35 × 31 = 約 1,251 円

ただし、この例は式の使い方を示すための計算である。英国の 1 軒の 2014〜15 年の冬の使用量に、日本の目安単価を当てたものにすぎない。日本の家庭の暖房の電気代を表すものではないし、電気で暖房する家の電気代でもない。

この計算で言えないこと

この結果から一般論を引き出すことはできない。言えないことを、はっきりさせておく。

  • 英国の 1 軒(比べた 3 軒を含めても 3 軒)の、2014〜15 年の冬の値で、計算は 1 回である。ほかの家や日本の家庭には当てはめられない
  • REFIT の家は主な暖房がガスで、電気で暖房する家の内訳を表さない
  • 測った 9 台の割合は「家の電気の内訳」ではない。測っていない分が 7 割を超える
  • 電圧は測っておらず、240 V と仮定されている。また、電力量は読み取り値に次の読み取りまでの時間を掛けたもので、論文は多め・少なめに出ることがあると認めている。太陽光の影響のない家では、電力会社の検針値との差はおおむね 12% 未満だったという
  • 清掃済みのデータでは、4000 W を超える測定器の値は 0 に置き換えられている
  • 暖房器具の種類と出力、期間中に測る家電を付け替えたかどうかは、本記事では確かめていない

出典の表示: 本節の値は、データセット「REFIT: Electrical Load Measurements (Cleaned)」(David Murray ほか、University of Strathclyde、DOI 10.15129/9ab14b0e-19ac-4279-938f-27f643078cec、ライセンス CC BY 4.0)を当サイトが集計したものだ。データの説明は論文 Murray, Stankovic & Stankovic「An electrical load measurements dataset of United Kingdom households from a two-year longitudinal study」(Scientific Data 4, 160122, 2017)による。

EU の「修理する権利」の指令で何が変わったか

EU の「修理する権利」の指令で何が変わったか

ここからは故障の側の話に移る。EU の「修理する権利」の指令(指令 2024/1799)は、2024 年 6 月 13 日に採択され、2024 年 7 月 10 日に官報に載った。「修理する権利」は通称で、英語の原題は「on common rules promoting the repair of goods」(物品の修理を促進する共通規則、当サイトの訳)である。加盟国は 2026 年 7 月 31 日から、この指令に沿った国内の規則を適用する。各加盟国の国内法の整備の状況は、本記事では調べていない。

最初に確認しておくと、これは EU の加盟国の制度で、日本の消費者には直接は適用されない。日本の読者にとっては、修理をめぐる制度がどう組み立てられているかを知る材料として読むのがよい。

対象は売主の法定責任が及ばない故障

指令が扱うのは、売主の法定責任、つまり「法定保証」が及ばない故障の修理だ。法定保証とは、EU の物品の売買の指令(2019/771)で売主が負う責任のことで、引き渡しの時点からあった不具合が 2 年以内に表に出たら、売主が責任を負う。この 2 年は EU として最低限の期間で、加盟国はより長くできる。メーカーが任意で付ける保証とは別のものだ。

「法定保証が及ばない」は、期間が過ぎた後だけを指すのではない。法定保証の期間が過ぎた後の故障のほか、期間内でも売主の責任にならない故障を含む。欧州委員会の担当部局の Q&A(2024 年 7 月 30 日。委員会の公式の立場ではないと断っている)は、製造者の修理義務は消費者が製品を買った時点から始まるとし、法定保証の無償修理を受けられない例として、消費者が原因で起きた故障を挙げている。この場合も、品目が附属書 II にあり、その品目に部品の供給の要件が及んでいれば、製造者に修理を求められるという。

修理義務は附属書 II の 11 品目だけ

製造者の修理義務がかかるのは、指令の附属書 II に挙がった品目だけである。附属書 II は、品目ごとに、その修理可能性の要件(部品の供給、分解、ソフトウェアの更新など)を定める EU の規則を挙げている。2026 年 10 月 26 日に官報の原文で確かめた時点で、品目は次の 11 項目だ(日本語は当サイトの訳)。

  1. 家庭用の洗濯機・洗濯乾燥機
  2. 家庭用の食器洗い機
  3. 冷蔵・冷凍機器
  4. 電子ディスプレイ
  5. 溶接機器
  6. 掃除機
  7. サーバー・データストレージ製品
  8. 携帯電話・コードレス電話・タブレット
  9. 家庭用の衣類乾燥機
  10. 軽量の移動手段用バッテリーを組み込んだ製品
  11. 家庭用の局所暖房機(2026 年の委任指令で追加。次の節)

逆に言えば、電子レンジ、電気ケトル、トースター、エアコンは、この 11 項目に名前が無い。これらの家電に、この指令による製造者の修理義務があるわけではない。

義務の中身は次のとおりだ。附属書 II の品目について、その品目の EU の規則が修理可能性の要件を定める範囲で、修理が不可能な場合を除き、消費者の求めに応じて製造者が修理する(第 5 条 1 項)。附属書 II に名前があるだけで、その品目の故障の全部に義務がかかるわけではない。欧州委員会の Q&A は、実際には、製造者が規則に従って部品として出さなければならない部分の故障が対象で、義務がかかるのもその部品を出す期間のあいだだと説明している。修理は無償か妥当な価格で行い、欧州委員会の説明では妥当な期間のうちに行う。EU の外の製造者の場合は、域内の代理人や輸入者などが義務を負う。また、消費者は製造者に限らず、好きな修理業者を選んでよい。つまり「何でも無料で直してもらえる」制度ではない。修理できる品目の、規則が定める範囲の故障について、修理を頼める先と価格の筋道を整えた制度である。

法定保証の延長と、その条件

指令は売買の指令(2019/771)も改めた。法定保証の期間内に、消費者が交換ではなく修理を選んだ場合、売主の責任期間は 1 回、12 か月延びる。加盟国はこれより長くしてもよいので、欧州委員会は「少なくとも 12 か月」と説明している。この延長は、2026 年 7 月 31 日より前に結んだ売買契約には適用されない。延びるのは売主の責任期間であって、メーカーの保証ではない点にも注意したい。

部品と修理の情報、修理業者を探すサイト

部品について指令が定めるのは価格の側だ。部品と工具を出している製造者は、修理をためらわせない妥当な価格で出さなければならない。一方、指令そのものは「部品を何年供給するか」を定めていない。部品の供給年数を定めるかどうかと、その年数は、附属書 II が品目ごとに挙げる EU の規則(多くはエコデザイン規則)による。

情報の面では、製造者は典型的な修理の目安の価格を無料のウェブサイトで示す。修理業者は、修理の条件をまとめた「欧州修理情報フォーム」を消費者に渡してもよい(義務ではない)。さらに、消費者が修理業者を探せる「欧州オンライン修理プラットフォーム」を作ることになっている。

このプラットフォームは、条文の期限と実際の稼働の見込みを分けて読みたい。条文では、欧州委員会が 2027 年 7 月 31 日までに共通のインターフェースを作り、加盟国はそれを使って国内セクション(加盟国ごとの区画)を設ける。ただし、国土全体をカバーし、条文の要件を満たす国内の修理のサイト(公的・民間を問わない)がある加盟国は、国内セクションを置かず、プラットフォームからそのサイトへのリンクで代えられる。その場合は、国内のサイトを 2027 年 7 月 31 日までに動かす。また、国内セクションへの修理業者の登録に条件を設けた加盟国は、共通のインターフェースが届いてから 6 か月以内に国内セクションを動かす。稼働の時期については、欧州委員会の 2026 年 7 月 31 日の発表が「2027 年に稼働する見込み」としていた一方、2026 年 10 月 26 日に確かめた欧州委員会の指令の案内ページは「2028 年 1 月に稼働する見込み」としている。この時点で、プラットフォームはまだ稼働していない。

附属書 II の品目は固定ではなく、委員会が委任法で品目を加える。その例が、次の節の暖房機である。

「修理する権利」の考え方を、米国の法学者が修理の歴史と、修理を阻む設計・法律の仕組みから整理した本の翻訳がある。EU の指令が何を変えようとしているのかを考える背景として読める。

家庭用の局所暖房機が対象に加わった — 委任指令 2026/74 と部品の 10 年

家庭用の局所暖房機が対象に加わった — 委任指令 2026/74 と部品の 10 年

冬の家電の話で見逃せないのが、委任指令 2026/74 だ。2026 年 1 月 12 日に採択され、4 月 20 日に官報に載り、加盟国は 2026 年 7 月 31 日から適用する。この委任指令は附属書 II に第 11 項「家庭用の局所暖房機」を加え、その修理可能性の要件を規則 2024/1103 に結びつけた。

局所暖房機とは、部屋を直接暖める暖房機である。規則の定義では、電気、ガス、液体燃料を直接熱に変えて、置かれた部屋を暖める機器を指す。日本の製品に当てるなら、たとえば電気ストーブやオイルヒーターのような機器が近い。ただし電気式だけではなく、ガスや液体燃料のものも含む。コードとプラグが付いて部屋から部屋へ動かせる「持ち運べる電気の局所暖房機」も、規則に定義がある。

規則 2024/1103 は 2025 年 7 月 1 日から適用されている。部品の供給について、規則が定めるのは次のことだ。

  • 電気式の局所暖房機では、2025 年 7 月 1 日以降に出荷されるモデルについて、製造者・輸入者・代理人がプロの修理業者に、制御部・サーモスタット・ファンのモーター・基板・表示部・ボタン類などの部品を出す(部品の一覧は、持ち運び型・固定型・蓄熱型など機器の種類で違う)
  • 供給の期間は、そのモデルの最後の 1 台を出荷してから少なくとも 10 年
  • リモコンは、電気式に限らず局所暖房機全体(2025 年 7 月 1 日以降に出荷されるモデル)について、プロの修理業者と利用者の両方に出す。期間は同じく最後の 1 台の出荷から少なくとも 10 年
  • 部品は注文から 10 営業日以内に届ける

この整理から分かるとおり、「暖房機の部品は誰でも 10 年買える」わけではない。電気式の暖房機の決められた部品は、プロの修理業者に向けて 10 年供給される。利用者も買える部品として挙がっているのはリモコンだけで、こちらは燃料を問わず 10 年である。また、洗濯機や冷蔵庫など、ほかの品目の部品の年数は本記事では調べていないので、ここでは書かない。

3D プリントの部品について、指令が言っていること

3D プリントの部品について、指令が言っていること

修理する権利の指令には、3D プリントの部品に触れた条文がある。第 5 条 6 項で、製造者に対して次のことを禁じている箇所だ。

not impede the use of original or second-hand spare parts,
compatible spare parts and spare parts issued from 3D-printing,
by independent repairers when those spare parts are in conformity
with requirements under Union or national law such as requirements
on product safety or in compliance with intellectual property

当サイトの訳では、「製造者は、独立した修理業者が、純正・中古・互換の部品や 3D プリントで作った部品を使うことを妨げてはならない。ただし、それらの部品が、製品の安全や知的財産に関する要件など、EU や国内の法令の要件に適合している場合に限る」という意味になる。知的財産の保護は、この定めとは別に扱われる。

この条文の読み方を誤らないようにしたい。主語は製造者で、守られるのは独立した修理業者が部品を使うことだ。対象も附属書 II の品目に限られる。したがって、次のようには読めない。

  • 「EU が 3D プリントの部品を認めた」: 条文は製造者が妨げることを禁じているだけで、部品の安全を保証するものではない。法令の要件に適合することが前提になっている
  • 「消費者が自作の部品で直す権利ができた」: 条文が対象にしているのは独立した修理業者で、消費者の権利としては書かれていない
  • 「3D プリントの部品で直してもメーカー保証が残る」: 条文はメーカー保証について何も言っていない

なお、前の節の暖房機の部品の年数は EU の規則によるもので、日本の補修部品の事情に当てはめることはできない。自分で部品を作って直す場合の手順と考え方は、3Dプリント 修理 実践 2026 — 廃番部品を採寸とAI CADで蘇らせる(2026-07-25 公開)で採寸から再設計まで書いた。また、作った部品を人に渡したり売ったりするときに生じる責任は、個人が物を売るときに必要な表示と責任 — 特定商取引法とPL法の最低ライン(2026-08-21 公開)で整理している。

測る・直す・作る — 冬の家電の電気代と故障を三つに分ける

測る・直す・作る — 冬の家電の電気代と故障を三つに分ける

ここまでの話を、手を動かす順に並べ直す。家電の電気代を式で読むには、家電ごとの電力量が要る。故障した家電を直すか買い替えるかを決めるには、何が直り、何が直らないのかを知る必要がある。そして、部品が手に入らないときは、3D プリントで作れるかどうかを考えることになる。当サイトはこれを「測る」「直す」「作る」の三つに分け、11 月 3 日から 8 日にかけて 1 日 1 本ずつ記事にする。

AI を使う 4 本(11 月 3・5・6・7 日)では、AI の役割を同じ形にそろえる。電力ログを読む、修理の記録の自由記述を分類する、部品の候補を仕分ける、といった作業を AI に任せる。そのうえで、正解は別の方法(Python のスクリプト、データに付いたラベル、先に決めた規則)で用意し、AI の答えがどれだけ合ったかを数える。どの実験も各条件 1 回の実行で、結果は「この実行ではこうだった」として書く。

測る

  • 11 月 3 日: 家電ごとの電力ログを AI に読ませ、待機電力や最も使った家電の読み取りを、Python で出した正解と照らして数える
  • 11 月 4 日: REFIT の公称 8 秒間隔のデータを粗い間隔に間引き、スマートプラグの書き出しの間隔によって、電力量と短い時間しか動かない家電の見え方がどう変わるかを数える

この記事の House 1 で 7 割以上が測っていない分だったように、測り方しだいで見えるものは変わる。何を、どの間隔で測るかを決めることが、家電の電気代を考える出発点になる。

直す

  • 11 月 5 日: 修理イベントの公開記録(Open Repair)で、何が直り、何が直らなかったかと、直らなかった理由を数える。故障内容の自由記述を AI に分類させ、データのラベルと照らす
  • 11 月 6 日: 直すか買い替えるかを電気代で計算する。古い冷蔵庫の実測と現行機の登録値を使い、AI の計算を Python の計算と照らす

作る

  • 11 月 7 日: 手に入らない家電の部品を 3D プリントで作ってよい範囲を、熱・食品・電気・強い力と回転・口と肌の線で決め、AI に候補を仕分けさせる
  • 11 月 8 日: 症状・家電・予算から、測る・直す・作るのどれから始めるかを逆引きで整理する

どの回も、結論は実験の結果を見てから書く。ここでは、問いと手順だけを先に示しておく。

日本の読者が先に押さえる線

日本の読者が先に押さえる線

最後に、日本で家電を測ったり直したりするときに越えない線を書いておく。

配線には触れず、家電の側だけを扱う

本記事と、11 月 3 日から 8 日にかけて公開する記事が扱うのは、コンセントより先の家電の側だけである。壁の中の配線やコンセントそのものには手を触れない。日本では住宅の配線の工事に資格の決まり(電気工事士法)があり、その詳細は本記事では扱わない。

家電を開けて中を見る話も、同じく慎重に扱う。家電を分解すると、メーカーの保証の扱いが変わることがある。電気が通る部分に触れれば感電のおそれもある。分解する前に、保証書と取扱説明書で条件を確かめ、電源プラグを抜いておくことが前提になる。

EU の制度を日本の制度と同じものとして読まない

EU の法定保証の延長や暖房機の部品の 10 年は、EU の加盟国の制度である。日本のメーカー保証、民法の契約不適合責任、補修用部品の保有期間とは別のもので、本記事は日本側の制度を調べていない。EU の決まりを、日本で買った家電にも当てはまるように読まないでほしい。英国も、EU の指令の対象として書いていない。

家で測るときの道具の注意

家電ごとの電力量を家で知りたいとき、日本ではワットチェッカー(ワットモニター)と呼ばれる測定器が使える。ただし、製品によって使える家電が違うので、暖房器具を測る前に仕様を確かめたい。以下はメーカーの公式ページの記載で、当サイトはいずれの製品も使っていない。

  • ラトックシステムの RS-BTWATTCH2 は、100V/15A、1500W までの家電をつなげる(メーカーの製品ページは 2026-10-26 時点で「出荷完了」と表示している。新しく買うには流通在庫の確認が要る)。メーカーは、家庭用の冷暖房器具の計測にも使えると明記している。記録は本体に残り、スマートフォンのアプリで見る。1 時間のグラフは 1 分ごとの値で、約 1 日分が残る。標準価格は 6,800 円(税別)
  • 同じラトックシステムの RS-WFWATTCH2 は Wi-Fi でつなぐ型で、定格は 15A・100V(1500W まで)。3P のコンセント専用である。標準価格は 7,800 円(税別)
  • サンワサプライの TAP-TST8N(公式の名称は「ワットモニター」)は、消費電力を 1650W まで測れる、表示を読み取る型だ。ただし定格容量は 15A・100V(100V で 1500W 相当)で、1650W はつないでよい上限ではなく測れる範囲の上限である。また注意書きで、熱器具・調理器具・エアコン・冷蔵庫・洗濯機・乾燥機など、壁のコンセントへ直接つなぐよう決められている機器には使わないよう求めている。標準価格は 6,820 円(税込)

つまり、「ワットチェッカーなら暖房器具を測れる」とは一般には言えない。3 製品とも 15A・100V の製品で、1500W を超える家電には使えないし、200V のエアコンにも使えない。価格はメーカーの標準価格で、実際の販売価格は確かめていない。

表示を読み取る型の測定器なら、サンワサプライの TAP-TST8N が手に入りやすい。上で書いたとおり、熱器具・調理器具・冷蔵庫・洗濯機などには使わないようメーカーが注意しているので、テレビやパソコン、照明など、それ以外の家電の消費電力を確かめる用途で使いたい。

まとめ — 単価を確かめ、何を測るかを決める

まとめ — 単価を確かめ、何を測るかを決める

本記事の要点を整理する。

  1. 冬の電気代の公式の値は、国によって意味が違う。英国の Ofgem の 26.32 ペンス/kWh は単価の上限で請求額の上限ではなく、次の上限は 11 月 25 日までに公表される。米国の EIA の 1,196 ドルは電気で暖房する家庭の 11〜3 月の見込みである。日本の 31 円/kWh はカタログ用の目安単価で、冬の支援は 2026 年 10 月 26 日の時点で未決定だった
  2. 家電の電気代は「電力量 × 単価」で読める。単価は自分の契約の値を入れる。難しいのは家電ごとの電力量のほうだ
  3. 英国の公開データ REFIT の House 1 では、2014〜15 年の冬に、家電ごとの計測器 9 台が捉えたのは家全体の 26.2% で、73.8% は測っていない分だった。電気の暖房器具は 1 日 1.345 kWh・9.5% だったが、この家の主な暖房はガスである
  4. EU の修理する権利の指令は、売主の法定責任が及ばない故障について、附属書 II の 11 品目に限り、その品目の EU の規則が修理可能性の要件を定める範囲で、製造者に修理を求められる筋道を作った(修理が不可能な場合を除く)。法定保証の期間内に修理を選ぶと売主の責任期間が延び、2026 年 7 月 31 日からは家庭用の局所暖房機も対象に入った。暖房機の部品の 10 年の供給は、電気式の決められた部品ではプロの修理業者に向けたもので、利用者も買えるのは燃料を問わずリモコンだけだ。3D プリントの部品の条文は、製造者が独立した修理業者を妨げないという意味である

まず手元でできるのは二つだ。一つは、電力会社の明細で自分の単価を確かめること。もう一つは、どの家電の電気代を知りたいのかを決め、その家電に使える測定器かどうかを仕様で確かめることである。家電の電気代は、単価と家電ごとの電力量がそろって初めて計算できる。

参照

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