「積層痕」をヤスリで削るな。スライサー設定ひとつでツルツルにするプロの時短術

「3Dプリンターで作った作品、なんか安っぽい…」
「表面のザラザラ(積層痕)を消すために、週末ずっとヤスリがけをして指が痛い…」
FDM(熱溶解積層)方式の3Dプリンターを使う限り、あの縞模様からは逃げられないと思っていませんか?
「ツルツルにしたければ、臭くて面倒な光造形(SLA)を買うしかない」と諦めていませんか?
実は、「ヤスリがけ」は最後の手段であり、敗北です。
プロのオペレーターは、印刷が終わった時点で既に「展示品レベル」の表面品質であることを目指します。
今日は、あなたのFDMプリンターで、物理的な労力を一切かけずに、スライサー(特にCuraやPrusa/Orca)の設定だけで積層痕を極限まで消すテクニックを3つ紹介します。
1. 魔法の機能「アイロニング (Ironing)」

シャツのシワをアイロンで伸ばすように、プラスチックもアイロンで伸ばせばいい。それを物理的にやってしまうのがこの機能です。
これは、最上面(トップレイヤー)を印刷し終わった後、ノズルをもう一度、ほんの少しだけ樹脂を出しながら(あるいは出さずに)表面を優しく撫でる機能です。
熱いノズルが表面の微細な凸凹を溶かして埋めるため、まるで射出成形品のような、あるいは光造形のような平滑な面が出来上がります。
推奨設定値 (Orca / Prusa / Cura共通)
もしデフォルト設定でうまくいかない場合は、以下の値を試してみてください。
- Ironing Type(適用範囲): 「Topmost surface only(最上面のみ)」
- 全ての層でやると時間がかかりすぎるため、目に見える一番上だけかけます。
- Ironing Flow(流量): 10% 〜 15%
- 多すぎるとバリになり、少なすぎると溝が埋まりません。15%から始めて微調整してください。
- Ironing Speed(速度): 30 mm/s (推奨) 〜 150 mm/s (Bambu Lab等の高速機)
- 標準的なプリンターなら 30〜50mm/s から始めてください。速すぎると効果が薄れたり、逆に荒れたりする原因になります。
2. 必要な場所だけ細かくする「適応積層ピッチ (Adaptive Layers)」

積層痕が一番目立つのは、実は「垂直な壁」ではありません。
「緩やかなカーブ(曲面)」 の部分です。ここには等高線のような縞模様がハッキリと出てしまいます。
「じゃあ、全部0.08mmピッチで印刷すればいい」と思うかもしれませんが、それでは印刷時間が普段の3倍、4倍になってしまいます。
そこで使うのが 「適応積層ピッチ (Adaptive Layers / Variable Layer Height)」 です。
これは、スライサーが形状を解析し、
- 垂直な壁: 0.2mm 〜 0.28mm(粗くても目立たないので早くする)
- 緩やかな斜面: 0.08mm 〜 0.12mm(細かくして段差を消す)
という風に、高さごとに積層ピッチを自動で切り替えてくれる神機能です。
Orca Slicerなら、ツールバーにある「層のようなアイコン」をクリックし、「Adaptive」ボタンを押すだけで自動計算してくれます。
これを使うだけで、見た目の美しさは「0.1mmピッチ相当」、印刷時間は「0.2mmピッチ相当」という、いいとこ取りが可能です。
3. 「マットフィラメント」という視覚マジック

最後は設定ではなく、物理的な「素材」の話です。
もしあなたが「光沢のある(GlossyやSilk)」フィラメントを使っているなら、それは積層痕を強調してしまっています。
光沢素材は光を正反射するため、わずかな段差の影をくっきりと見せてしまうのです。
逆に、「マット(つや消し)PLA」 を使ってみてください。
PolymakerのPolyTerraや、eSUNのMatte PLAなどが有名です。
マット素材は表面で光を乱反射(拡散)させるため、積層痕の凸凹による影がぼやけます。
驚くべきことに、同じ0.2mmピッチで印刷しても、マット素材の方は「肉眼ではほとんど積層痕が見えない」というレベルまで誤魔化すことができます。
設定をいじるのが怖い人は、まずフィラメントを変えるのが一番の近道かもしれません。
まとめ:時間は有限、ヤスリは無限
ヤスリがけをしている時間は、何も生み出しません。
粉まみれになって指を痛める前に、まずはスライサーを開いてください。
- 平面には「アイロニング」
- 曲面には「適応積層ピッチ」
- 全体には「マットフィラメント」
この3つの武器を使いこなせば、あなたのFDMプリンターはまだまだ現役で戦えます。
今すぐ設定をONにして、その「ツルツル」な手触りを確かめてみてください。
