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小さな水耕栽培装置を3Dプリント部品で組む — 養液・光・ポンプの配置

ゲンキ

水耕栽培の装置を3Dプリント部品で自作しようとすると、最初に出てくる疑問は設計ではなく配置である。養液の容器はどれを使うか、ポンプは要るのか、ライトはどの高さに置くのか、pH と EC はいくつに合わせるのか。ネットポットや蓋のデータは Printables や MakerWorld に数多く公開されているが、データを印刷しただけでは装置にならない。容器・光・養液の条件がそろって初めて、葉物が育つ環境になる。

※本記事にはアフィリエイト広告(PR)が含まれます。

本記事は、卓上に置ける小さな水耕栽培装置を題材に、3Dプリントで作る部品と買う部品の分け方、ポンプを使わない Kratky 方式を最初の一台に勧める理由、育成ライトの光量を PPFD と DLI で決める計算、そして pH と EC の目安を大学・公的機関の資料ごとに並べて示す。AI に設計の相談と計算を任せる方法と、その答えのどこを資料で確かめるかも書く。

なお、当サイトはこの装置を実際に組み立てて栽培したわけではない。手順と数値は、ハワイ大学・コーネル大学・オクラホマ州立大学・オレゴン州立大学などの公開資料と、公開されている3Dプリント用データの説明文に基づく。該当する箇所には参照先のリンクを付けた。

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水耕栽培を3Dプリントで始めると、どこでつまずくか

水耕栽培を3Dプリントで始めると、どこでつまずくか

自作の水耕装置で起きやすい失敗は、大きく三つに分けられる。

  • 方式を決めずに部品を作る。水耕には養液を循環させる方式と、させない方式がある。循環させる方式ではポンプが要り、そのうちエブ&フローは給排水の周期を決めるタイマーも使う。させない方式ではどちらも要らない。どちらを選ぶかで、印刷する部品の形も買う部品も変わる
  • 容器に光が入る。透明な瓶や衣装ケースをそのまま使うと、養液に光が当たって藻が増える。ハワイ大学の資料は、光を通す容器では藻が生えて作物の生育が遅れると書いている
  • 数値を一つに決めようとする。pH や EC の目安を検索すると、資料ごとに違う値が出てくる。どれか一つを正解として丸めると、品種や方式の違いを見落とす

3Dプリントの側にも固有の注意がある。PLA は60 °C を超えると軟化し、紫外線で劣化するとフィラメントメーカーの Prusa は説明している。ライトの近くや水に触れ続ける部品に何を使うかは、素材の性質から決める必要がある。また、造形物は積層の溝に細菌が増えやすく、Prusa は食品に直接触れる用途には PETG を含むどのフィラメントも勧めていない。葉物を食べる前提の装置では、この点を設計の段階で考えておく。

水耕栽培の四つの方式 — Kratky・湛液式・NFT・エブ&フロー

水耕栽培の四つの方式 — Kratky・湛液式・NFT・エブ&フロー

オレゴン州立大学の「Hydro hints」シリーズ(2025年刊)は、NFT・バケツ式・湛液式・エブ&フローを方式ごとに1冊ずつ解説している。ポンプを使わない Kratky 方式はこのシリーズには入っておらず、ハワイ大学 CTAHR の B.A. Kratky による一連の資料が原典にあたる。本記事では、小さな装置に関係する次の四つを並べる。バケツ式は、同シリーズの概要冊子がつる性や栽培期間の長い作物に向くとしているため、ここでは省く。

方式仕組み動力資料の位置づけ
Kratky 方式(非循環式)植え付け前に養液を全量入れ、根が吸うにつれて水位が下がる。水位の上にできた湿った空気の層で根が酸素を取る不要(電気・ポンプ・ウィックなし)短期の葉物向け(CTAHR)
湛液式(DWC、Deep Water Culture)根を養液に浸したまま育て、エアポンプとエアストーンで酸素を送るエアポンプ広い場所に向く(OSU)
NFT(Nutrient Film Technique、薄膜水耕)溝に薄い養液の膜を流し続ける。根域が小さく、葉物・ハーブ向き。水平の溝は最低 2% の勾配をつける循環ポンプ短期作物・縦型に向く(OSU)
エブ&フロー(Flood and drain)タイマーでポンプを動かし、トレイを養液で満たしてから排水するポンプとタイマー育苗に向く(OSU)

この四つのうち、ポンプも電気も使わないのは Kratky 方式だけである。ただし、これはこの四つの中で比べた場合の話だ。水耕のあらゆる方式の中で唯一という意味ではない。

湛液式について、コーネル大学の温室レタス生産の資料は、レタスは溶存酸素(DO)が 4 ppm 以上あれば十分に育ち、空気を入れないとほぼ 0 ppm まで下がると書いている。小さな装置ならエアポンプと水槽用のエアストーンで空気を送れるが、純酸素を使う場合ほど DO は上がらない、とも添えている。4 ppm という値はコーネルの資料のもので、同じ数値を別の資料では確認できていない。コーネルの温室生産の条件での値として受け取ってほしい。

最初の一台に Kratky 方式を選ぶ理由

最初の一台に Kratky 方式を選ぶ理由

小さな装置の最初の一台として Kratky 方式を勧める理由は、ポンプが無いことに尽きる。Kratky の2009年の論文は、この方式を「電気・ポンプ・ウィックを必要としない」と要約し、養液はすべて植え付け前に入れると書いている。

ポンプが無ければ、次の二つを考えずに済む。

  • ポンプが止まったときや、周期が乱れたときの対策。何が問題になるかは方式によって違う。NFT は薄い養液の膜を流し続ける方式で、オレゴン州立大学の資料は、停電やポンプの故障で膜が途切れるとすぐに植物がしおれるため、電源とポンプの予備が欠かせないと書いている。エブ&フローは冠水と排水をタイマーで繰り返す方式で、同じシリーズの資料は、周期を安定させるために確実に動くタイマーが要るとしている
  • 電源と水を近くに置くこと。ポンプとライトの両方に電源が要る構成では、コンセントまわりに水がかからない配置を考えなければならない

一方で、Kratky 方式には守るべき条件がある。一つは、水位を上げないことだ。論文は、水位は同じままか下がってよいが、上げてはいけない、酸素を取っている根が水に沈むと植物が「溺れる」と書いている。途中で養液を継ぎ足して満水に戻すと、空気中に伸びた根が水没する。

もう一つは、作物を選ぶことである。ハワイ大学の VC-1 は、この方式は栽培期間全体で1株あたり2ガロン(約 7.6 L)未満の水で済む作物に限ると書いている。HG-42 も、キュウリやトマトのように大量の水を使う長期作物には向かないとする。リーフレタスやセミヘッドレタスは播種から6〜7週ほどで収穫されると 2009年の論文にあり、HG-42 は準備を済ませてから5〜6週で収穫すると書いている。起点が違うので、どちらの数字を使うかは資料ごとに読み分けてほしい。

2009年の論文で説明されている4 L ボトルの方式では、ネットポットの下 3 cm を養液に浸し、ボトルは覆うか暗くして藻を防ぐ。この「下 3 cm」と「遮光」が、3Dプリントで作る蓋の寸法と、ネットポットを保持する高さを決める条件になる。

窓辺で葉物を水で育てる手順を写真で追いたいなら、窓辺の水耕栽培に絞った入門書がある。

3Dプリントで作る部品と、買う部品を分ける

3Dプリントで作る部品と、買う部品を分ける

水耕栽培の装置を3Dプリントで作るとき、全部を印刷しようとしないことが大事だ。オレゴン州立大学の資料(バケツ式の解説)は、容器には高密度ポリエチレン(HDPE)のような食品グレードのものを使い、有害な物質に使われていた容器は避けるよう書いている。一方で 3Dプリントの造形物は、積層の溝・着色剤や添加剤・真鍮ノズルの摩耗粉といった理由から、食品に直接触れる用途を Prusa が勧めていない。

この二つを合わせると、分け方は次のようになる。

区分部品理由
3Dプリントで作る蓋(容器の口をふさぎ、ネットポットを保持する)容器の口径に合わせた寸法が要る。養液に浸からない高さに設計する
3Dプリントで作るライトの支柱・スタンド高さを調整できる形にしたい。養液に触れない
買う養液の容器食品グレードの容器(HDPE など)を使う
買うネットポット根と養液に触れる部品。材質の表記がある市販品を使う
買うpH 計・EC 計、校正液測定の精度は印刷では作れない
買うエアポンプとエアストーン(湛液式のみ)市販の完成品をそのまま使う
買う育成ライトPPFD の分布が公表されている製品を選ぶ
買う養液(水耕用肥料)包装の指示どおりに混ぜる

ネットポットは根と養液の両方に触れる部品である。食品グレードの材料であると示せる根拠が 3Dプリントの造形物には無いため、本記事の手順では、ネットポットは材質の表記がある市販品を使う。市販品を買うときも、表記された材質を確かめてほしい。ネットポットを印刷する案は、根拠がそろっていない試作として扱い、食べる作物の栽培には勧めない。

素材は PETG を基本にする。Prusa は PETG を防水部品にも使われる素材として紹介し、水と湿気に強いと書いている。PLA は同じ Prusa の説明で、技術用途や屋外用途に向かず、60 °C を超えると軟化・変形し、紫外線で劣化するとされている。育成ライトの近くに置く支柱や、湿気の多い容器の口に置く蓋には PETG のほうが向く。ただし、PETG や PLA を養液に長期間浸したときの劣化や溶出について、メーカーや公的機関の数値は確認できなかった。そのため本記事では、素材の差を定性的な説明にとどめる。

筐体と素材の耐熱の関係は 筐体の中は思ったより熱い — 放熱と通気、そして電源まわりの安全設計(2026-08-07 公開) で、荷重たわみ温度の比較とともに解説している。

蓋やライトの支柱は、水と湿気に強い PETG で印刷するのが基本になる。

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公開されている3Dプリント用データとライセンス

公開されている3Dプリント用データとライセンス

水耕栽培向けの3Dプリント用データは、瓶用の蓋・ネットポット・NFT の金具などが公開されている。次の表は、2026-09-28 に各配布ページでライセンスと説明文を確認したものだ。当サイトはこれらを印刷していない。

データ配布先内容ライセンス
Mason Jar Kratky Hydroponic LidPrintablesレギュラーマウスのメイソンジャー用の蓋。1.5インチのロックウールキューブを保持する。サポートなしCC BY-NC-SA(非商用に限る)
Hydroponic Net Pot LidPrintables口径 8 cm・6ラグのねじ口の瓶にねじ込む蓋。サポート不要CC BY-NC-SA(非商用に限る)
Mason Jar Net PotPrintablesワイドマウス用の3インチネットポット。サポートなしCC BY
50mm / 2in Hydroponic Net CupPrintables50 mm のネットカップCC BY
Hydroponic NFT Downspout Horizontal BracketPrintables米国の 2×3 インチの雨どいを NFT の溝に使うための金具CC BY-SA
Hydroponic Mason Jar KitMakerWorldワイドマウス・レギュラーマウスの両方に使えるアダプター。ネットカップはサポートが要るStandard Digital File License(CC ではない)
oya-kratkyGitHubKratky 方式用の3Dプリント部品の設計一式MIT(最終更新は 2021-11-15 で、更新は止まっている)

ライセンスの扱いで注意する点は二つある。CC BY-NC-SA のデータは非商用に限られるため、印刷した部品を販売する用途には使えない。また、MakerWorld の Standard Digital File License は Creative Commons とは別の規約で、利用条件は配布ページで確認する必要がある。NFT の金具は米国の雨どいの寸法に合わせたもので、日本で売られている雨どいに合うかは確認していない。なお、ここでのライセンスの説明は一般的な整理で、法的助言ではない。

蓋の二つのデータの説明文には、どちらも遮光の注意が書かれている。「Mason Jar Kratky Hydroponic Lid」は、根に藻が付きにくいようにテープや塗装で光を遮るのがよいとし、「Hydroponic Net Pot Lid」は、藻を防ぐためにガラス瓶の周りを靴下や紙で覆うことを勧めている。データを作った人も、光の問題を前提にしているということだ。

蓋とネットポットの設計要件 — 遮光・隙間・浸水深

蓋とネットポットの設計要件 — 遮光・隙間・浸水深

公開データを使う場合も、自分で設計する場合も、蓋とネットポットが満たすべき条件は資料から決まる。

一つめは遮光である。オレゴン州立大学の湛液式の資料は、蒸発と藻を減らすために水面を不透明な材料で覆い、隙間を減らすよう書いている。3Dプリントの蓋は濃い色で印刷し、点灯したライトにかざして透けないことを確かめてから使う。容器の側面も覆う。ハワイ大学の HG-42 は、透明なボトルを塗るか袋をかぶせて光を遮る方法を挙げている。

二つめは隙間をふさぐことだ。HG-42 は、ネットポットとボトルの間に隙間があると、蚊が入り込んで養液の中で増えると書いている。蓋の穴は、使う市販ネットポットの外径を実測し、印刷の寸法誤差を見込んで設計する。瓶にねじ込む蓋を自分で作るなら、ねじの設計は 3Dプリント ねじ 完全ガイド 2026 — 印刷ねじ・インサートナット・セルフタップの使い分け(2026-07-22 公開) が参考になる。

三つめは浸水深と水位である。2009年の論文の4 L ボトルの方式では、ネットポットの下 3 cm を養液に浸す。容器に最初に入れる養液の量は、この深さから逆算する。その後は水位が下がるにまかせ、継ぎ足して元の水位に戻さない、というのが Kratky 方式の前提だ。

四つめは強度と向きだ。蓋は容器の口に何度も着け外しする。ねじ山やつめの部分は積層の向きで割れやすさが変わるため、壁の数と造形の向きを先に決めておく。考え方は 3Dプリント 強度 設計実践 2026 — 形状・壁数・アニーリングで「割れない部品」を作る(2026-07-24 公開) にまとめている。

育成ライトの光量を PPFD と DLI で決める

育成ライトの光量を PPFD と DLI で決める

室内の水耕栽培では、光の量がそのまま生育を決める。照度(lux)ではなく、植物が光合成に使える光の瞬間の強さ PPFD(µmol·m⁻²·s⁻¹)と、1日の総量 DLI(mol·m⁻²·d⁻¹)で考える。lux が植物用の指標に向かない理由と、窓辺の光の測り方は 冬の室内栽培を AI と計画する — 窓の光と室温から育てる植物を選ぶ(2026-10-05 公開) で説明しているので、ここでは水耕装置のライトを決める計算に絞る。

パデュー大学の資料は、24時間の平均 PPFD に 0.0864(1日の秒数 86,400 を 1,000,000 で割った値)を掛けると DLI になると説明している。LED を決まった時間だけ点けるなら、同じ定義から次の式になる。

DLI = PPFD × 点灯時間(h)× 3,600 ÷ 1,000,000

例えば PPFD 250 µmol·m⁻²·s⁻¹ で 16 時間点灯すると、250 × 16 × 3,600 ÷ 1,000,000 = 14.4 mol·m⁻²·d⁻¹ である。逆に、目標の DLI から必要な PPFD を求めることもできる。バジルで DLI 12.9 を 16 時間点灯で得るなら、12.9 × 1,000,000 ÷(16 × 3,600)でおよそ 224 µmol·m⁻²·s⁻¹ になる。

レタスとバジルの目安は、条件つきで次のように報告されている。

作物資料値条件
レタスコーネル大学(温室レタスハンドブック)推奨 DLI 17 mol·m⁻²·d⁻¹使ったボストンビブ系品種で最もよかった値。下向きの送風が必要で、送風なしでは 12 を超えられなかった
レタス・バジルPennisi ほか(2020年)PPFD 250 µmol·m⁻²·s⁻¹(DLI 14.4)まで増収、300 では増えず室内・赤青 LED・16時間日長・24 °C、PPFD 100〜300 を比較
バジルDou ほか(2018年)商業生産に DLI 12.9 mol·m⁻²·d⁻¹ を提案室内の垂直農場を想定。白色蛍光灯で DLI 9.3〜17.8 の5水準を比較

パデュー大学の区分では、DLI 6〜12 が中光量、12〜18 が高光量、18 を超えると非常に高い光量の作物とされる。上の値は、レタスもバジルも高光量の側に入ることを示している。

育成ライトを選ぶときは、ワット数ではなく、距離ごとの PPFD の分布をメーカーが公表している製品を選ぶ。PPFD は光源からの距離で大きく変わるため、同じ製品でも吊るす高さで DLI が変わる。3Dプリントのライト支柱を高さ調整できる形にしておくのは、この距離を合わせるためだ。

補光用のライトの一例として、E26 口金に取り付けるスポット型の育成ライトがある。吊るす高さで PPFD が変わるので、購入前に距離ごとの PPFD の公表値を確かめてから高さを決める。

pH と EC の目安は資料ごとに違う

pH と EC の目安は資料ごとに違う

養液の管理では pH と EC の二つを測る。pH は栄養の吸収しやすさを左右する。ハワイ大学の VC-1 は、pH が高いとマンガン・銅・亜鉛・鉄が、低いとリン・カリウム・カルシウム・マグネシウムが吸収されにくくなると書いている。EC(電気伝導度)は養液の濃さの指標である。

目安の値は、資料によって違う。次の表は、四つの資料の値を一つにまとめずに並べたものだ。

資料レタス pHレタス ECバジル pHバジル EC
コーネル大学(温室の湛液式)5.8 が最適、5.6〜6.0 を許容水源の EC に上乗せして 1150〜1250 µS/cm——
ハワイ大学 VC-1(Kratky 方式)5.5〜6.5(養液全般)1.5 mS/cm を基準に、暑い時期 1 から涼しい時期 2.5 まで——
オクラホマ州立大学 HLA-6722 表26.0〜7.01.2〜1.8 mS/cm5.5〜6.01.0〜1.6 mS/cm
バージニア工科大学 SPES-464(湛液式。pH は作物全般、EC は葉物全般)5.5〜6.21.2〜2.0 mS/cm——

オクラホマ州立大学の資料は、表2とは別に本文で、養液の pH は 5〜6(通常は 5.5)にし、根のまわりの pH を 6〜6.5 に保つと書いている。表2の値だけを見て養液の pH を合わせないよう注意してほしい。

1 mS/cm は 1,000 µS/cm である。コーネルの値は「水源の EC に上乗せ」なので、水道水の EC を先に測って差し引く必要がある。コーネルの資料は、センサーの読みから水源の EC を引くよう明記している。

値がそろわない理由は、資料の前提が違うからだ。温室の商業生産か家庭の小さな容器か、湛液式か Kratky 方式か、暑い地域か涼しい地域か。ハワイ大学の資料が、暑い時期と涼しい時期で EC を変えるよう書いているのはその一例である。自分の装置に近い条件の資料を選び、その幅の中に収めるようにしたい。表の範囲と液肥のラベルの指示が食い違う場合は、ラベルの指示を優先する。

養液そのものは、水耕用の肥料を包装の指示どおりに混ぜる。バージニア工科大学の資料は、肥料の混ぜ方は作物に応じて肥料メーカーが決め、包装に書かれていると説明している。本記事では特定の銘柄を推奨しない。

水温にも上限がある。コーネルの資料は水温を 25 °C 以下とし、オクラホマ州立大学の資料は 72〜75 °F(約 22〜24 °C)を最適としている。オレゴン州立大学の資料も、養液は涼しく日光から守るよう書いている。窓辺の直射日光が容器に当たる置き方は避ける。

pH 計と EC 計の校正と、測る順番

pH 計と EC 計の校正と、測る順番

pH 計と EC 計は、校正してから使う。オクラホマ州立大学の資料は、pH 計は pH 4・7・10 の緩衝液で校正し、EC 計は校正液に合わせると書いている。EC の校正液は多くが 1.41 mS/cm である。具体的な操作は機種ごとに違うため、計測器の取扱説明書に従ってほしい。ハワイ大学の VC-1 は、どの pH 計も定期的な校正が必要で、pH 電極は EC 計より寿命が短い傾向があるとしている。

測る順番も決まっている。オクラホマ州立大学の資料は、EC を最適な範囲に合わせてから pH を測るよう書いている。EC が目安より高ければ水を足して薄め、低ければ濃縮した養液を足す。そのうえで pH を確認する。

頻度は資料によって違う。オクラホマ州立大学は pH と EC を毎日測るよう勧め、バージニア工科大学は週2〜3回としている。つまり「毎日から週2〜3回」の幅がある。オクラホマ州立大学はさらに、養液を2週間ごとに全量交換することを勧めている。ただし Kratky 方式は養液を最初に全量入れ、水位を上げない前提の方式だ。全量交換や継ぎ足しの考え方は方式によって違うので、自分が採用した方式の資料に従ってほしい。

手順をまとめると次のとおりだ。

  1. 使う前に pH 計を緩衝液(pH 4・7・10 のうち取扱説明書が指定するもの)で、EC 計を校正液で校正する
  2. 水源(水道水など)の EC を測って記録する
  3. 液肥を包装の指示どおりに混ぜ、EC を測る。必要なら水か濃縮液で調整する
  4. EC が範囲に入ってから pH を測る
  5. 測った値と日時をノートや表計算に記録する

pH と EC を1本で測れる複合計の一例。校正液が付属するか、別に買う必要があるかを購入前に確かめておく。

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AI に設計の相談と DLI の計算を任せ、何を確かめるか

AI に設計の相談と DLI の計算を任せ、何を確かめるか

ここまでの条件は、項目が多く、資料も分かれている。Claude や ChatGPT のような対話型の AI は、これらを整理して装置の構成案を作る作業に使える。任せやすいのは次の三つだ。

  • 部品表を作る。容器の口径と置き場所の寸法を渡し、3Dプリントで作る部品と買う部品を表にさせる
  • DLI と PPFD の計算をさせる。点灯時間と目標の DLI を渡し、必要な PPFD を求めさせる。逆に、ライトの PPFD の公表値から DLI を求めさせる
  • 蓋の寸法を出させる。容器の口径、市販ネットポットの外径と長さ、浸水深 3 cm を渡し、蓋の穴径や蓋の厚みを計算させる。OpenSCAD のようなパラメトリック CAD のコードとして出させれば、寸法を変えて作り直しやすい

相談するときは、条件を先に表で渡す。例えば次のように書く。

小さな水耕栽培装置を計画しています。
方式: Kratky 方式(ポンプなし)
容器: 食品グレードの HDPE 容器、口の内径 80 mm、高さ 150 mm
容器の容量と胴の形: (実測して記入。例: 容量 ○ L、胴は円筒)
ネットポット: 市販品、外径 ○ mm、長さ ○ mm、蓋からの突き出し ○ mm
作物: リーフレタス 1 株
ライト: 育成用 LED、点灯 16 時間
知りたいこと:
1. 目標 DLI を 14.4 mol/m2/d にするための PPFD(計算式も示す)
2. ネットポットの下 3 cm を養液に浸すときの初期水位
3. 3Dプリントする部品と、買う部品の一覧
数値の根拠には出典の名前を付け、出典の無い数値は「未確認」と書いてください。
計算に足りない条件があれば、推測で埋めずに先に質問してください。

AI の答えは、そのまま使わずに次の点を資料で確かめる。

  • 計算式と桁。DLI の式で 3,600 と 1,000,000 の扱いを取り違えると、答えが桁ごとずれる。上の式に自分で数字を入れて、同じ値になるかを確かめる
  • pH・EC の値の出どころ。AI は資料ごとの幅を一つの値に丸めて答えることがある。答えに出てきた値が、上の表のどの資料のどの条件の値なのかを確認する。出典を示せない値は採用しない
  • 作物の向き不向き。Kratky 方式が長期作物に向かないことや、水位を上げてはいけないことが答えに反映されているかを見る
  • 素材と食品接触。AI が「PETG は食品安全なので問題ない」のように断定したら、Prusa 自身が食品に直接触れる用途を勧めていないことと照らし合わせる
  • 製品の仕様。ライトの PPFD やポンプの適用水量は、AI の記憶ではなくメーカーの公表値で確かめる

AI に任せると速くなるのは、条件の整理と計算だ。数値の根拠を確かめる作業は、AI に出典の名前を出させたうえで、人が原典を開いて行う。

組み立ての順番 — Kratky 方式の小さな装置

組み立ての順番 — Kratky 方式の小さな装置

資料と公開データの説明に基づいて、Kratky 方式の小さな装置を組む順番を並べる。ハワイ大学の HG-42(ボトル1本の方式)とフロリダ大学の HS184(浮き板式の手順)が、手順の参考になる。

  1. 容器を決める。食品グレードの容器を用意し、口の内径と高さを測る。透明な容器なら、側面を塗装・テープ・袋などで遮光する方法を決めておく
  2. ネットポットを買い、蓋を用意する。ネットポットは材質の表記がある市販品を買い、外径と長さを測る。蓋は、公開データを使う場合はライセンスと対応する口径を確認してから印刷する。自分で設計する場合は、ネットポットの下 3 cm が養液に浸かる高さで保持し、ネットポットとの隙間ができないようにする。素材は PETG、色は光を通しにくい濃い色にする
  3. ライトの支柱を印刷する。ライトの高さを調整できる形にしておき、後で PPFD を合わせられるようにする
  4. 計測器を校正する。pH 計を緩衝液で、EC 計を校正液で校正し、水源の EC を測る
  5. 養液を作る。液肥を包装の指示どおりに混ぜ、EC を合わせてから pH を測る。値は、自分の条件に近い資料の範囲に収める
  6. 水位を決めて植え付ける。ネットポットの下部が浸かる水位まで養液を入れ、苗を植え付ける。浸す深さは、2009年の論文の4 L ボトルの方式では下 3 cm、HG-42 ではネットポット(長さ3インチ)の下半分と、資料ごとに異なる。以後は水位を上げない
  7. 光を合わせる。点灯時間を決め、目標の DLI から必要な PPFD を計算し、ライトの高さを調整する
  8. 記録する。pH・EC・水温・水位を決まった時刻に測って記録する

湛液式に進む場合は、ここにエアポンプとエアストーンが加わる。オレゴン州立大学とバージニア工科大学の資料が、構成と測定の手順を説明している。エアポンプは市販の完成品をそのまま使い、電源まわりを改造しないこと。エアポンプの必要な能力について、公的資料に数値の目安は見当たらなかった。容器の容量と、製品に書かれた適用水量を照らし合わせて選ぶ。

買う道具の選び方 — 容器・計測器・ポンプ・ライト

買う道具の選び方 — 容器・計測器・ポンプ・ライト

買う部品は、種類ごとに次の点を見て選ぶ。本記事では特定の銘柄や価格を挙げない。

  • 容器: 食品グレードの表記があるもの。オレゴン州立大学の資料は、食品グレードの容器の例として HDPE を挙げている。口径が公開データや自作の蓋に合うかを先に確認する
  • pH 計・EC 計: pH と EC を1本で測れる複合計と、pH だけを測る単機能の計器がある。どちらを選ぶにしても、pH 4・7・10 の緩衝液と EC の校正液(1.41 mS/cm など)を一緒にそろえる。pH 電極は消耗品だ
  • エアポンプ: 湛液式の場合のみ必要で、Kratky 方式では要らない。容器の容量に対する適用水量を製品の表記で確認する
  • 育成ライト: 距離ごとの PPFD の分布が公表されている製品を選ぶ。照度(lux)だけの表記では、植物に届く光の量を判断できない
  • 養液: 水耕用の肥料を、包装の指示どおりに使う

完成品の水耕栽培キットと比べてみるのも一つの方法だ。ライト・ポンプ・容器が一体になった完成品の構成を見ると、自作でどこを3Dプリントに置き換えると得になるかが判断しやすくなる。

まとめ — 水耕栽培を3Dプリントで組むときの判断

まとめ — 水耕栽培を3Dプリントで組むときの判断

小さな水耕栽培の装置を3Dプリント部品で組むときの判断は、次のように整理できる。

  • 最初の一台は Kratky 方式にする。ポンプも電気も要らず、止まらないポンプへの対策も不要になる。代わりに、水位を上げないことと、短期の葉物に限ることを守る
  • 印刷するのは蓋とライトの支柱に限る。養液の容器は食品グレードの市販品、根と養液に触れるネットポットは材質の表記がある市販品を使う。素材は PETG を基本とし、食品接触の安全性は断定しない
  • 遮光と隙間を設計に入れる。容器の側面まで光を遮り、ネットポットと蓋の隙間をふさぐ
  • 光は PPFD と DLI で決める。レタスとバジルは、資料の条件つきで DLI 12.9〜17 程度が報告されている。計算式に自分で数字を入れて確かめる
  • pH と EC は資料ごとの幅として扱う。自分の条件に近い資料を選び、液肥のラベルの指示を優先する。校正と測る順番を守る
  • AI には整理と計算を任せ、数値の出どころは原典で確かめる

公開データを印刷する前に、まず容器の口径を測り、使う方式の資料を1冊選んでほしい。そこから蓋の寸法とライトの高さが決まる。

参照

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