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家電を直すか買い替えるかを電気代で決める — 英国の家庭で測った冷蔵庫と現行機の登録値で、損益分岐を計算する

ゲンキ

冷蔵庫が壊れて修理の見積もりが出たとき、直すか買い替えるかを決める材料の一つに電気代がある。新しい冷蔵庫は電気をあまり使わないと聞けば、修理代との差額を払って買い替えても、毎年の電気代の差でいずれ取り戻せそうに思える。ところが、何年で取り戻せるのかは計算してみないと分からない。しかも計算に入れる二つの数字、つまりいま使っている冷蔵庫の電力量と、新しい冷蔵庫のカタログに載る電力量は、測り方がまったく違う。

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本記事では、損益分岐の年数を一つの式で出し、そこに公開データの値を入れて計算する。古い冷蔵庫の値は、英国の家庭の電力を家電ごとに測った公開データ REFIT(英国の 20 軒、2013〜2015 年、公称 8 秒間隔)から取る。新しい冷蔵庫の値は、米国の ENERGY STAR に登録された現行機の年間消費電力量から取る。

本記事で「古い冷蔵庫」と書くときは、2013〜2015 年に英国の家庭で使われていた冷蔵庫(REFIT で測られた冷蔵庫)だけを指す。製造年・使った年数・容量はデータに無いので書かない。また、当サイトが家電を測ったのではなく、公開データを PC で集計して計算した結果である。

先に結論を書く。この計算の条件では、3 台の冷凍冷蔵庫のうち、例として置いた費用(£300・45,000 円)を 12 年以内に電気代の差で取り戻せたのは、年 491 kWh を使っていた 1 台だけだった。それも、新しい冷蔵庫の実際の電力量を登録値の 1.0 倍か 1.2 倍と置いた場合に限られ、6.2〜12.0 年かかった。同じ計算を AI にさせると、この実行では claude -p が 45 項目すべて正解し、手元で動かした小さなモデルは「回収できない」組を「811.1 年で回収」と答えた。電気代の計算は AI に頼めるが、答えは式に戻して確かめる必要がある。

冬を前に家電の電気代と故障をまとめて見直す理由は、家電の電気代と故障に AI で向き合う — 冬の前に測る・直す・作るをそろえる理由と、EU の修理する権利で変わったこと(2026-11-02 公開)に書いた。本記事はそのうち、電気代の面から買い替えを考える部分を数字で確かめる。

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直すか買い替えるかを電気代で比べる式 — 損益分岐の年数

直すか買い替えるかを電気代で比べる式 — 損益分岐の年数

修理すれば、いまの冷蔵庫を使い続ける。買い替えれば、新しい冷蔵庫に替わる。どちらにも費用がかかるので、比べるのは費用の差である。買い替えのほうが高くつく分を、毎年の電気代の差で何年かけて取り戻せるか。これを本記事では損益分岐の年数と呼び、次の式で出す。

損益分岐の年数 = 買い替えで余分にかかる費用 ÷ 年間の電気代の差
買い替えで余分にかかる費用 = 買い替えの費用 − 修理の費用
年間の電気代の差 = 年間の電力量の差 × 電気の単価
年間の電力量の差 = いまの冷蔵庫の年間の電力量 − 新しい冷蔵庫の登録値 × k

年間の電気代の差が 0 以下になる場合は、新しい冷蔵庫のほうが電気を多く使うので、何年待っても取り戻せない。本記事の表ではこれを「回収できない」と書く。

k は、新しい冷蔵庫が実際の暮らしで登録値の何倍の電力量を使うかを表す。登録値は試験室で決まった条件のもとで測った値で、家庭での使い方とは条件が違う(次の節で詳しく見る)。k の本当の値は分からないので、本記事では k=1.0・1.2・1.5 の 3 通りを仮定して表にする。k は仮定であり、測った値ではない。

公的な案内も、同じ形の計算を使っている。米国の ENERGY STAR は「Flip Your Fridge Calculator」で、いま使っている冷蔵庫の電気代と、買い替えたときの節約額を 5 年分で示す。英国の Energy Saving Trust は、ラベルに載る年間の kWh(kWh/annum)で家電を比べるよう案内し、冷凍冷蔵庫の節約額を、A と E の比較で寿命 17 年分として示している。どちらも「年間の差 × 年数」の形である。本記事の式は、この形を延ばして、余分な費用を年間の差で割ったものだ。余分な費用と比べよと書いた公的な文は見つけていないので、この比べ方は本記事の計算として示す。

単価と費用の例

計算例に入れる電気の単価は次の二つで、ポンドと円の間で換算しない。為替を取っていないうえに、英国の値は上限で、日本の値は目安と、定義も違うからだ。

  • 英国: 26.32 ペンス/kWh。Ofgem が定めた 2026 年 10〜12 月の上限で、標準変動料金・口座振替、イングランド・スコットランド・ウェールズの平均、電気の VAT なしの値である。上限は単価と基本料にかかるもので、請求額の上限ではない
  • 日本: 31 円/kWh。全国家庭電気製品公正取引協議会(家電公取協)の目安単価(税込、令和4年7月22日改定)。実際の料金は契約している小売電気事業者によって異なる

日本の目安単価は、3Dプリントの原価を日本の電気代で計算し直す — 値付けの根拠を作る(2026-08-19 公開)でもプリンターの電気代の計算に使った。なお、英国の基本料(1 日 54.83 ペンス)は冷蔵庫を替えても変わらないので、差の計算には入らない。

買い替えで余分にかかる費用は、例として £300 と 45,000 円を置く。冷蔵庫の本体価格や修理費の相場を調べた値ではなく、計算の形を見せるための例の値である。自分で使うときは、手元の見積もりの差額に置き換えてほしい。

比べる二つの数字は測り方が違う — 家庭の実使用の値と試験の登録値

比べる二つの数字は測り方が違う — 家庭の実使用の値と試験の登録値

式の中で引き算する二つの値は、同じ物差しで測った数字ではない。計算の結果を読む前に、この限界を書いておく。

REFIT の値は、家庭のコンセントで測った実使用の値だ。家電とコンセントの間にプラグ型の計測器(IAM)を挟み、有効電力を公称 8 秒間隔で記録した。計測器は電流だけを測り、電圧を 240 V と仮定して W を出している。論文は、電圧の変動が読み取りの誤差になりうると書いている。また論文によれば、測っている間、住人は普段どおりに暮らしていた。扉の開け閉め、室温、温度の設定は家庭ごとにばらばらで、それがそのまま値に入っている。

これに対して、ENERGY STAR の値は米国の試験手順で測った登録値である。データの説明は、この値を典型的な条件での年間の推定値とし、米国エネルギー省(DOE)の試験手順で計算したものだと書く。そのうえで、実際の電力量は扉を開け閉めする回数、周りの室温、中にどれだけ物を入れておくかで変わる、とも書いている。

米国・EU・日本の試験方法

年間の値は、米国・EU・日本のいずれも 1 日分を 365 日分に直す形で出す(EU はさらに負荷係数 L で割り、周りの温度・湿度で制御する露付き防止ヒーターの電力量 E aux を足す)。違うのは 1 日分の測り方である。

地域1 日分の測り方年間の値の出し方
米国(10 CFR 430.23、Part 430 Subpart B の Appendix A。冷凍庫は Appendix B)32.2 °C(90 °F)で扉を開けずに測り、22.2 °C(72 °F)の部屋で扉を開ける普通の使い方を再現する1 日分 × 365
EU(規則 2019/2016 の附属書 IV、2021 年 3 月からの新ラベル)16 °C と 32 °C の平均(低騒音の機器は 25 °C)。旧ラベル(規則 1060/2010)は 25 °CAE = 365 × E daily ÷ L + E aux
日本(JIS C 9801-3:2015)32 °C を 205 日、16 °C を 160 日として足す205 日分 + 160 日分

三つとも、家庭での使い方を何らかの形で試験に映そうとしている。米国は扉を開けない代わりに、周りの温度を高くして測る。EU は、冷凍室だけの機器に限り 1 日分を負荷係数 L=0.9 で割り、温かい食品を入れる分の負荷を上乗せする(ほかの機器は L=1.0 で上乗せはない。規則は、この負荷を、試験の高めの平均周囲温度で織り込んだ分を超える追加の負荷としている)。日本の JIS は、日本電機工業会が 2015 年に経済産業省の審議会に出した資料によれば、安定・霜取り・負荷投入の運転条件ごとに測って算出する。どの方法が家庭の実使用に最も近いかは、確かめていない。

同じ冷蔵庫でも試験方法が変わると数字が変わる

試験方法の違いが数字にどれだけ出るかは、同じ機種の値で見るのが早い。パナソニックの NR-B178W の仕様表には、新しい JIS(JIS C 9801-3:2015)で 350 kWh/年、旧 JIS(JIS C 9801:2006)で 300 kWh/年と、二つの値が並んでいる(どちらも 50Hz)。冷蔵庫は同じでも、測り方が変わると 350 − 300 = 50 kWh/年の違いが出る。

旧 JIS は、30 °C を 180 日、15 °C を 185 日として足していた。先の日本電機工業会の資料は、JIS の改正で消費電力量の表示値が平均約 30% 増える見込みだと書いている(実際の平均の増え方は確かめていない)。EU でも事情は同じだ。英国の Energy Saving Trust は、新旧のラベルを直接比べるのは難しい(”tricky to directly compare”)と書き、旧ラベルで A だった製品が新ラベルでは F になりうると説明している。

登録値と実使用がずれる例(日本の旧 JIS)

登録値と家庭での実際の値がずれる例も、資料にある。同じ日本電機工業会の資料によると、2012 年 8 月〜2013 年 7 月に 90 台を調べた結果、カタログ値の平均 286 kWh/年に対して、実使用の平均は 380 kWh/年で、カタログ値の 133% だった。401 L 以上の機種に限ると、240 kWh/年に対して 376 kWh/年(157%)である。資料は、ずれの理由として露付き防止ヒーター、庫内の温度の設定、霜取りの周期、付加機能、周りの温度、温度保証ヒーター、高温時の効率の低下の 7 つを挙げている。

ただし、これは日本の旧 JIS の値と、日本の家庭での例である。米国の試験による ENERGY STAR の値を補正する倍率としては使えない。本記事の k は、この 133% から取った値ではなく、仮定として置いた 3 通りである。

古い冷蔵庫の電力量 — REFIT の冷蔵庫系 24 列を 1 年分に直す

古い冷蔵庫の電力量 — REFIT の冷蔵庫系 24 列を 1 年分に直す

条件

REFIT は、英国ラフバラ周辺の 20 軒で家全体と家電ごとの電力を測ったデータで、University of Strathclyde の David Murray らが公開している。清掃済みの版が CC BY 4.0 で配布されており、本記事の表の値は当サイトがこの版を集計したものである(データセット名・DOI・論文は末尾の参照に記した)。どの列が何の家電かは、配布元の README の家電一覧に従った。この一覧は調査開始時のもので、途中で測る家電が変わった列には注記が付いている。

計算の条件は、実行の前に次のように決めて固定した。

  • 対象: README の家電名に Fridge(冷蔵庫)・Freezer(冷凍庫)を含む列。Fridge-Freezer(冷凍冷蔵庫)と Chest Freezer(横型の冷凍庫)も含む
  • 除いた列: README に途中で変わったという注記がある 5 列。たとえば House 4 の冷凍冷蔵庫は 2014-08-17 に変更があり、House 11 の冷蔵庫は 2014-10-07 から測り始めている
  • 電力量: 各行の W に次の行までの秒数を掛けて足す。次の行まで 120 秒を超える区間と、家電の合計が家全体を超えたことを示す印(Issues)が付いた行は数えない
  • 日の扱い: 英国の現地時刻で日を区切り、データのある時間が 23 時間未満の日を外す。冷蔵庫の列が 1 日 0.05 kWh 未満の日も外す。清掃済みの版は 2 分を超える欠けを 0 W で埋めているので、止まらずに動いているはずの冷蔵庫が 0 に近い日は、計測器が外れていたとみなした
  • 期間: 連続する 365 日の窓を、データのある最初の日から 7 日ずつずらして数え、データのある日が最も多い窓を列ごとに選ぶ。データのある日が 300 日未満の列は使わない
  • 年間の値: データのある日の 1 日平均 × 365

年間の値を「1 日平均 × 365」で出したのは、米国・EU・日本のラベルも 1 日分を 365 日分に直す形で年間の値を出すからだ。形はそろうが、中身は上で見たとおり違う。

結果

使えた列は 24 列で、選ばれた窓の始まりは 2014 年 3 月 1 日から 6 月 4 日の間に収まった。種類ごとの年間の電力量は次のとおりである。

種類(README の表記)列の数年間の電力量の範囲(kWh/年、実使用)
冷蔵庫(Fridge)576〜316
冷凍庫(Freezer、Chest Freezer)9146〜558
冷凍冷蔵庫(Fridge-Freezer、Fridge Freezer)10185〜491

損益分岐の計算には、冷凍冷蔵庫を使う。10 列の値は次の表のとおりで、冬は 12〜2 月、夏は 6〜8 月の 1 日平均である。

家使えた日数1 日平均(kWh)年間(kWh/年)冬(kWh/日)夏(kWh/日)
House 23360.8573130.7790.984
House 33031.3464911.131.577
House 93390.9133330.8910.932
House 103330.6152250.5550.674
House 113100.5061850.2990.788
House 123440.672440.5650.799
House 153380.5922160.5590.633
House 16(2 台目)3080.5672070.480.661
House 173140.6782480.6410.767
House 193411.1654251.1141.3

同じ冷凍冷蔵庫でも、いちばん少ない House 11 の 185 kWh/年から、いちばん多い House 3 の 491 kWh/年まで開きがある。House 3 は家全体の値に太陽光発電が混じる家だが、ここで使うのは冷凍冷蔵庫の列だけである。House 16 は冷凍冷蔵庫を 2 台測っており、1 台目は README に変更の注記があるので除いた。

24 列すべてで夏のほうが多かった

24 列すべてで、夏の 1 日平均が冬より多かった。冷凍冷蔵庫の中で差が最も大きかったのは House 11 で、冬の 0.299 kWh/日に対して夏は 0.788 kWh/日だった。差が最も小さい House 9 でも、0.891 kWh/日に対して 0.932 kWh/日と、夏のほうが多い。

夏に増える理由を、このデータだけで確かめることはできない。とはいえ、周りの温度が上がるほど冷やすのに電力が要ると読むのが自然で、EU と日本の試験が周りの温度を 2 通りに変えて測っていることとも合う。

この結果は、自分の冷蔵庫を測るときにも関わる。24 列のうち 23 列では冬の 1 日平均が 1 年の窓の 1 日平均を下回った(残る House 4 の冷蔵庫は、小数 3 桁ではどちらも 0.242 kWh/日で、4 桁目まで見ると冬のほうがわずかに多かった)。冬の数日だけ測って 365 倍すると、年間の値を少なく見積もりやすい。House 11 で冬の平均から年間を出すと 0.299 × 365 = 109 kWh で、1 年の窓から出した 185 kWh/年を大きく下回る。

もう一つ、これらの値は 2014〜15 年の値だ。ENERGY STAR の Flip Your Fridge Calculator は、過去のデータを冷蔵庫の年数による劣化で補正した前提を置いている。したがって、REFIT の値をその冷蔵庫の「いまの」消費とは言えない。

冷蔵庫の電力量は、置いた部屋の温度で変わる。置き場所の室温を記録しておくと、夏と冬の差を自分の家で確かめられる。

現行機の登録値 — ENERGY STAR の型ごとの中央値

現行機の登録値 — ENERGY STAR の型ごとの中央値

ENERGY STAR の冷蔵庫のデータ(ENERGY STAR Certified Residential Refrigerators)は、米国環境保護庁(EPA)がログインなしで取得できる CSV として公開している。EPA のデータのライセンスは、特に断りがなければパブリックドメインが既定である。2026 年 10 月 26 日に取得した時点で、冷蔵庫のデータは 4,890 行、冷凍庫のデータ(ENERGY STAR Certified Residential Freezers)は 673 行だった。どちらも、データの行の最終更新は 2026 年 10 月 25 日(UTC)である。

このデータは、いま米国で売られている冷蔵庫の平均を表すものではない。ENERGY STAR の認証を受けた省エネ機だけの一覧である。データの説明によれば、認証機は原則として、同じ構成・大きさの冷蔵庫に米国の連邦基準が認める上限より 10% 以上少ない電力量でなければならない。

次の表の値は、32.2 °C で扉を開けずに測る米国の試験手順による登録値で、REFIT の家庭での実使用の値と同じ物差しの数字ではない。容量は 1 ft³ = 28.31685 L(NIST)で換算した。

型(CSV の Type)機種数登録値の中央値(kWh/年)25〜75 パーセンタイル容量の中央値容量が小さい 4 分の 1 の中央値(kWh/年)
Top Freezer(冷凍室が上)839363332〜39018.0 ft³(509.7 L)308(容量の中央値 11.5 ft³、325.6 L)
Bottom Freezer(冷凍室が下)1,675556465〜63419.6 ft³(555.0 L)438(14.6 ft³、413.4 L)
Side-by-Side(左右に開く)123640593.5〜69424.8 ft³(702.3 L)560(20.0 ft³、566.3 L)
Freezerless and Single Door(冷凍室なし・1 ドア)296288254〜31416.7 ft³(472.9 L)254(11.5 ft³、325.6 L)
Upright Freezer(縦型の冷凍庫)502438396〜49315.35 ft³(434.7 L)418(11.0 ft³、311.5 L)
Chest Freezer(横型の冷凍庫)9218213〜34610.6 ft³(300.2 L)212(10.05 ft³、284.6 L)

表の 6 行のうち、Upright Freezer と Chest Freezer の 2 行は冷凍庫のデータ(ENERGY STAR Certified Residential Freezers)の値で、ほかの 4 行は冷蔵庫のデータの値である。冷蔵庫のデータの Type は 9 つあり、表には REFIT の冷蔵庫・冷凍冷蔵庫と比べる 4 つの型だけを載せた。外したのは、CSV の Compact の欄が Yes の小型機の型(Compact Refrigerator 1,769 機種、Compact Cooler 130 機種)と Cooler(53 機種)、冷蔵庫のデータに混じる Upright Freezer(4 機種)と Chest Freezer(1 機種)である。冷凍庫のデータでも、小型機の型 Compact(162 機種)は外した。

ENERGY STAR の機種の容量も見ておく。Top Freezer の容量の中央値は 18.0 ft³(509.7 L)ある。REFIT の冷蔵庫の容量は分からないので、どの帯が REFIT の冷蔵庫に近いかは決められない。そこで、型の中で容量が小さいほうの 4 分の 1 の機種についても中央値を出した。

損益分岐の計算では、Top Freezer のうち容量が小さい 4 分の 1 の中央値、308 kWh/年を新しい冷蔵庫の登録値とした。冷凍冷蔵庫の三つの型(Top Freezer・Bottom Freezer・Side-by-Side)の中では最も低い値で、買い替えに有利な側の値である。REFIT の冷凍冷蔵庫の冷凍室が上にあるのか下にあるのかは、確かめていない。Bottom Freezer の小さい 4 分の 1 の中央値 438 kWh/年を相手にした場合は、次の節の最後に書く。

EU と日本の登録データを使わなかった理由

EU の製品エネルギーラベルの登録データベース EPREL について、欧州委員会は API で多くの製品の値を出せると説明している。ただし API はキーが必要で、申請はフォームに記入して EPREL の宣言書(EPREL Declaration)をダウンロードし、電子シールか電子署名を付けて送る形だ(申請の区分は法人と個人がある)。本記事の実験では使っていない(2026 年 10 月 26 日にキーなしで呼ぶと 403 が返った)。公開サイトで型番を引くことはできる。

日本では、資源エネルギー庁の省エネ型製品情報サイトが、現在販売されている家電製品の省エネ性能表示のデータベースになっている。型番ごとの検索はできるが、一括で取り出す手段は 2026 年 10 月 26 日の時点で確認できなかった。そのため、型ごとの分布を数えられたのは ENERGY STAR だけだった。

損益分岐を計算する — 3 台の冷凍冷蔵庫と 3 通りの k

損益分岐を計算する — 3 台の冷凍冷蔵庫と 3 通りの k

入れた値は次のとおりである。

  • 古い冷凍冷蔵庫: 10 列から大・中・小の例として選んだ House 3(491 kWh/年)、House 9(333 kWh/年)、House 15(216 kWh/年)。英国の家庭での実使用の値
  • 新しい冷蔵庫: ENERGY STAR の Top Freezer の小さい 4 分の 1 の中央値 308 kWh/年 × k(k=1.0・1.2・1.5 は仮定)。米国の試験による登録値
  • 単価: 英国 26.32 ペンス/kWh(0.2632 ポンド/kWh)、日本 31 円/kWh
  • 買い替えで余分にかかる費用: 例の値 £300、45,000 円

House 3 の k=1.0 の組で、式に数字を入れると次のようになる。

年間の電力量の差 = 491 − 308 × 1.0 = 183 kWh
英国: 年間の電気代の差 = 183 × 0.2632 = 48.17 ポンド → 300 ÷ 48.17 = 6.2 年
日本: 年間の電気代の差 = 183 × 31 = 5,673 円 → 45,000 ÷ 5,673 = 7.9 年

9 組すべてを Python で計算した結果が次の表で、これを AI の答えを採点する正解にした。差の列は、英国の家庭の実使用の値から米国の試験の登録値 × k を引いた計算上の差であり、測った節約額ではない。

古い冷凍冷蔵庫k年間の電力量の差(kWh)英国: 年間の差(ポンド)英国: £300 を取り戻す年数日本: 年間の差(円)日本: 45,000 円を取り戻す年数
House 3(491)1.0183.048.176.25,6737.9
House 3(491)1.2121.431.959.43,763.412.0
House 3(491)1.529.07.6339.389950.1
House 9(333)1.025.06.5845.677558.1
House 9(333)1.2−36.6−9.63回収できない−1,134.6回収できない
House 9(333)1.5−129.0−33.95回収できない−3,999回収できない
House 15(216)1.0−92.0−24.21回収できない−2,852回収できない
House 15(216)1.2−153.6−40.43回収できない−4,761.6回収できない
House 15(216)1.5−246.0−64.75回収できない−7,626回収できない

表の読み方

例の費用を 12 年以内に取り戻せたのは、House 3 の k=1.0 と 1.2 の組だけだった。英国の単価では 6.2 年と 9.4 年、日本の単価では 7.9 年と 12.0 年である。同じ House 3 でも、新しい冷蔵庫が登録値の 1.5 倍を使うと置けば、英国で 39.3 年、日本で 50.1 年かかる。

House 9 は k=1.0 でも英国で 45.6 年、日本で 58.1 年かかり、k が 1.2 以上では回収できない。House 15 は、どの k でも回収できなかった。年 216 kWh は、新しい冷蔵庫の登録値 308 kWh/年をそもそも下回っているからだ。

答えが k でどう変わるかは、年間の電力量の差が 0 になる k を出すと分かりやすい。この k は「いまの冷蔵庫の年間の電力量 ÷ 新しい冷蔵庫の登録値」で求まる。

House 3:  491 ÷ 308 = 1.59
House 9:  333 ÷ 308 = 1.08
House 15: 216 ÷ 308 = 0.70

新しい冷蔵庫が登録値のこの倍数より多く使えば、買い替えたほうが電気を多く使うことになる。House 9 は登録値を 8% 上回るだけで差がなくなり、House 15 は新しい冷蔵庫が登録値の 0.70 倍しか使わないと置かない限り、差が出ない。

公的な計算機と同じく 5 年分の節約額で見ると、House 3 の k=1.0 でも 48.17 × 5 = 240.85 ポンド、5,673 × 5 = 28,365 円で、例の費用(£300・45,000 円)に届かない。取り戻すまでの年数が 5 年を超える(6.2 年・7.9 年)ことと同じことを、別の向きから見たものである。

相手を冷凍室が下の型に替えると

新しい冷蔵庫の登録値を、Bottom Freezer のうち容量が小さい 4 分の 1 の中央値 438 kWh/年に替えて計算し直す。House 3 の k=1.0 でも、差は 491 − 438 = 53 kWh になる。英国の単価では 53 × 0.2632 = 13.95 ポンド/年で、300 ÷ 13.95 = 21.5 年かかる。日本の単価では 53 × 31 = 1,643 円/年で、45,000 ÷ 1,643 = 27.4 年である。House 9(333)と House 15(216)は 438 を下回るので、k=1.0 でも回収できない。

比べる相手の型を一つ替えるだけで、結論がここまで動く。新しい冷蔵庫の値を何にするかは、計算の結果を左右する前提だ。

表の 9 組は、Python の数行で計算できる。手元の見積もりを入れて何通りも回したいなら、Python の基本を押さえておくと早い。

AI に同じ計算をさせた結果 — 45 項目を式に戻して照合する

AI に同じ計算をさせた結果 — 45 項目を式に戻して照合する

条件

上の入力をそのまま日本語の依頼文にして、二つのモデルに渡した。

  • claude -p: Claude Code の非対話モード。モデルは別名 sonnet で指定し、記録されたモデル ID は claude-sonnet-5-5(Claude Sonnet 5.5)だった
  • gemma4:12b: Google DeepMind の Gemma 4 12B を、手元の PC の Ollama で動かした(Ollama 0.40.11、Q4_K_M、温度 0、文脈の長さ num_ctx 16384 トークン)。思考(答えの前に推論を書き出す動作)をさせる条件と、思考を切った条件の 2 通り

依頼文の要点は次のとおりである。

古い冷蔵庫を修理して使い続けるか、新しい冷蔵庫に買い替えるかを、電気代だけで比べます。
- 古い冷蔵庫3台の年間の電力量(実測): House3 491 kWh、House9 333 kWh、House15 216 kWh
- 新しい冷蔵庫の年間の電力量の登録値: 308 kWh。実際の使用では登録値の k 倍になると仮定し、
  k=1.0・1.2・1.5 の3通りで計算する
- 電気の単価: 英国 26.32 ペンス/kWh(=0.2632 ポンド/kWh)、日本 31 円/kWh。通貨は換算しない
- 買い替えで余分にかかる費用(買い替えの費用−修理の費用): 英国 300 ポンド、日本 45,000 円
古い冷蔵庫ごと・k ごとに、電力量の差、電気代の差、取り戻すまでの年数を出してください。
電気代の差が 0 以下なら "回収できない"。答えは JSON の配列だけを返してください。

古い冷凍冷蔵庫と k の組は 9 組あり、1 組につき 5 項目を答えさせた。電力量の差、英国と日本の電気代の差、英国と日本の年数で、計 45 項目になる。これを Python の計算と照合し、±1% と ±0.1 のうち大きいほうの範囲に入れば正解とした。「回収できない」は、文字どおり一致したときだけ正解である。各条件 1 回の実行で、この結果を一般化することはできない。

結果

モデルと条件正解(45 項目中)この実行での様子
claude -p(Sonnet 5.5)45すべて正解。費用は $0.02
gemma4:12b(思考あり)0思考が、設定した文脈の長さ(num_ctx 16384 トークン)に達し、答えを返さなかった
gemma4:12b(思考なし)21k を掛けた値の計算を誤った

思考を切った gemma4:12b の外れ方には、はっきりした形があった。k=1.0 の 3 組は、15 項目すべてが正解だった。k を掛ける必要がない組である。一方、k=1.2 と 1.5 の 6 組では、電力量の差と電気代の差の 18 項目がすべて外れた。

年数は、6 組のうち 3 組(House 9 の k=1.5、House 15 の k=1.2・1.5)で「回収できない」と答えて合った。差の値は外れていたが、符号は正解と同じ負だったからだ。残りの 3 組は、年数も外れた。House 3 の k=1.5 では、差を 29.0 kWh ではなく 89.5 kWh と答え、£300 を取り戻すまでを 39.3 年ではなく 12.7 年とした。実際より 3 倍ほど早く元が取れる答えである。

いちばん困るのは House 9 の k=1.2 だ。本当は新しい冷蔵庫のほうが年 36.6 kWh 多く使い、電気代は増えるので回収できない。ところが答えは、差を +1.4 kWh、電気代の差を年 0.37 ポンドとし、「811.1 年で回収」とした(日本の単価では 1041.4 年)。

答えの中の辻褄では誤りが見つからない

この 811.1 年は、答えの中では辻褄が合っている。811.1 × 0.37 = 300.1 で、年数と電気代の差を掛けると £300 に戻る。答えの中の数字どうしを照らし合わせても、誤りは見つからない。入力から最初の引き算をやり直すと、333 − 308 × 1.2 = 333 − 369.6 = −36.6 で、符号から違うことが分かる。

AI に損益分岐を計算させたら、次の三つで確かめる。

  1. 入力から 1 組を手で計算し直す。特に、最初の「いまの冷蔵庫 − 登録値 × k」の引き算を確かめる
  2. 符号を見る。新しい冷蔵庫の登録値 × k がいまの冷蔵庫の値を上回る組は、必ず「回収できない」になる
  3. 差が 0 になる k(いまの冷蔵庫の値 ÷ 登録値)を出し、それより大きい k の組が「回収できない」になっているかを見る

計算そのものは数行のコードで済むので、数字を AI に答えさせるより、式を表計算や Python に入れて自分で回すほうが確かめやすい。上の正解表と同じ計算は、たとえば次のように書ける。

old = {"House3": 491, "House9": 333, "House15": 216}  # 年間 kWh(REFIT の実使用)
new = 308                                             # 年間 kWh(ENERGY STAR の登録値)
price = {"GBP": 0.2632, "JPY": 31}                    # 1 kWh あたりの単価
extra = {"GBP": 300, "JPY": 45000}                    # 買い替えで余分にかかる費用(例)

for name, kwh in old.items():
    for k in (1.0, 1.2, 1.5):
        diff = kwh - new * k
        for cur in price:
            save = diff * price[cur]
            years = round(extra[cur] / save, 1) if save > 0 else "回収できない"
            print(name, k, round(diff, 1), cur, round(save, 2), years)

直すか買い替えるかを決める手順 — 電気代で元が取れる条件

直すか買い替えるかを決める手順 — 電気代で元が取れる条件

この計算から読めることを一文にすると、今回比べた 3 台と 3 通りの k で、例の費用を 12 年以内に電気代の差で取り戻せたのは、もともと電気を多く使っていた機種で、しかも新しい機種が登録値に近い電力量で動く場合だけだった、となる。冷凍冷蔵庫 10 列のうち最も多く使っていた House 3 でさえ、英国の単価で k=1.5 では 39.3 年かかり、相手を Bottom Freezer の小さい 4 分の 1 にすれば k=1.0 でも 21.5 年かかった。

自分の冷蔵庫で計算するときは、次の順に値を集める。

  1. いまの冷蔵庫の年間の電力量: ラベルやカタログの値は試験の登録値で、古い機種では試験方法がいまと違うこともある(NR-B178W は同じ冷蔵庫で 350 と 300 kWh/年)。コンセントで測るなら、測定器の説明書で冷蔵庫に使えるかを確かめる(冷蔵庫に使わないよう注意している製品もある)。測る期間は長くとる。REFIT の 24 列はすべて夏のほうが多く、冬の数日を 365 倍すると少なく出やすい
  2. 新しい冷蔵庫の登録値: 日本の冷蔵庫は、家庭用品品質表示法にもとづき、JIS C 9801-3 の試験方法で測った年間消費電力量を kWh/年で表示する。型番は省エネ型製品情報サイトで、EU の製品は EPREL の公開サイトで引ける
  3. k: 1.0 だけで決めず、少なくとも 1.2 と 1.5 でも計算する。日本の旧 JIS の調査では実使用がカタログ値の 133% だった例があるが、これは補正の倍率ではない
  4. 買い替えで余分にかかる費用: 買い替えの見積もりと修理の見積もりの差額
  5. 計算と確認: 式に入れ、差が 0 になる k を出しておく

何年で取り戻したいかを先に決めておけば、逆に「いまの冷蔵庫がどれだけ電気を使っていれば買い替えで元が取れるか」の下限が出る。

いまの冷蔵庫の年間の電力量 > 新しい冷蔵庫の登録値 × k + 余分な費用 ÷ (単価 × 年数)

10 年で取り戻すこととし、本記事の例(登録値 308 kWh/年、k=1.0)で計算する。英国は 308 + 300 ÷(0.2632 × 10)= 422 kWh/年、日本は 308 + 45,000 ÷(31 × 10)= 453 kWh/年になる。冷凍冷蔵庫 10 列のうち、英国の下限を超えるのは House 3(491)と House 19(425)の 2 列、日本の下限を超えるのは House 3 の 1 列だけだった。10 年という年数も、計算のために置いた例である。

そして、電気代だけで決めないこと。修理できるかどうか、部品が手に入るかどうかは、電気代の式には入らない。修理の記録から何が直り、何が直らないのかを数えた家電の故障で何が直り、何が直らないのか — 修理イベントの41万件の記録を集計し、直らない理由を AI に読ませる(2026-11-05 公開)と合わせて読むと、電気代の差を考える前に、そもそも直せるのかを確かめる順番が見えてくる。

いまの冷蔵庫の電力量を長い期間で記録するなら、電力モニタリング付きのスマートプラグが手軽だ。冷蔵庫につないでよいかは、買う前に取扱説明書で確かめてほしい。

この計算で言えないこと

この計算で言えないこと

最後に、この計算から言えないことをまとめておく。

  • 古い冷蔵庫の値は、その冷蔵庫のいまの消費ではない。2013〜2015 年に英国の家庭で測った値で、ENERGY STAR の計算機は冷蔵庫の電力量を年数で補正する前提を置いている。読者の冷蔵庫の値でもない
  • 大きさをそろえていない。REFIT の冷蔵庫の容量と製造年はデータに無い。新しい冷蔵庫は容量の帯で示しただけで、同じ大きさの冷蔵庫どうしを比べたわけではない
  • 新しい冷蔵庫の値は米国の認証機の登録値。米国の試験手順による値で、認証を受けた省エネ機だけの一覧から取った。日本や EU の登録値で計算すれば、違う数字になる
  • k は仮定。日本の 133% は日本の旧 JIS の例で、ENERGY STAR の値の補正には使っていない
  • 単価は一定と置いた。英国の Ofgem の次の上限は 2026 年 11 月 25 日までに公表される(早まることもある)(2027 年 1〜3 月分)。単価が変われば年数も変わる
  • 環境負荷は扱っていない。買い替えで出る製造時・廃棄時の環境負荷(CO2)は、本記事の計算に含めていない
  • 故障の起きやすさや使える年数は式に入っていない。修理した冷蔵庫がまた壊れる可能性も、新しい冷蔵庫が何年使えるかも計算の外にある
  • AI の結果は各条件 1 回の実行。同じモデルでも、依頼文を変えたり実行し直したりすれば結果は変わりうる

まとめ — 冷蔵庫を直すか買い替えるかは、電力量の差と k で決まる

まとめ — 冷蔵庫を直すか買い替えるかは、電力量の差と k で決まる
  • 損益分岐の年数は「買い替えで余分にかかる費用 ÷(年間の電力量の差 × 単価)」で出せる。新しい冷蔵庫の実使用は登録値 × k と置き、k は仮定として複数の値で計算する
  • REFIT(英国の 20 軒、2013〜2015 年)の冷蔵庫系 24 列は、冷凍冷蔵庫 10 列で年 185〜491 kWh だった。24 列すべてで夏のほうが冬より多かった
  • ENERGY STAR の登録値は米国の試験手順による省エネ機だけの値で、家庭の実使用の値とは測り方が違う。2026 年 10 月 26 日の取得時点で、Top Freezer の中央値は 363 kWh/年、容量が小さい 4 分の 1 は 308 kWh/年だった
  • 例の費用(£300・45,000 円)を 12 年以内に取り戻せたのは House 3(491 kWh/年)の k=1.0・1.2 だけで、6.2〜12.0 年かかった。House 3 の k=1.5 と House 9 の k=1.0 は 39.3〜58.1 年かかり、House 9 は k が 1.2 以上で、House 15 はどの k でも回収できなかった
  • AI の計算では、この実行で claude -p が 45 項目すべて正解、gemma4:12b は思考ありで答えず、思考なしで 21 項目だった。回収できない組を「811.1 年で回収」とした答えは、答えの中では辻褄が合っていたので、入力から式に戻して確かめる

冷蔵庫を直すか買い替えるかを電気代で考えるなら、まず、いまの冷蔵庫が 1 年でどれだけ電気を使っているかを知るところから始める。その値が新しい冷蔵庫の登録値を大きく上回っていなければ、電気代の差で買い替えの元を取るのは難しい。

参照

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